《MUMEI》
4話
「っで?なんで俺たちはファミレスにいるわけ?」
「ごめん、食材何もないことすっかり忘れてた」
長い髪を振り乱しながら、御咲は頭を下げる。
「まっ、いいけどさ」
「ごめんね。今日はおごるよ」
「いいって。それより冷めるよ」
「あっ、うん」
御咲はパスタを口に運ぶ。
「美味しい」
御咲が目を丸くするのを見ながら、暁もハンバーグを食べる。
噛んだ瞬間に出る肉汁とソースが絡んでとても美味い。
「パスタって、一度食べてみたかったんだよねー」
「食べたことないの?」
「え?あっ、う、うん。うちの親、麺類大嫌いで...」
「へー」
「それよりも、今日の暁君、凄かったね」
「大したことないよ」
「あとからきいたけど、この街の学生人口って100万人近くいるんでしょ?その中の26位って...」
「まあ、確かにね。自分でもびっくりしたし」
「最後の氷の剣?を砕いたのって」
「ああ、あれは...」
暁は淡希にしたのと同じ説明をする。
「ふーん。...本当に?」
そう尋ねた御咲の目を見た途端、暁は背筋が凍りつくかと思った。
影のある表情。
そして見たことのない冷たい瞳。
それが射抜くように暁を見ている。
暁は冷汗を首筋に書きながらも、
「ほんとだよ」
と冷静に返す。
「そっか」
次の瞬間には御咲は暖か瞳に戻っていた。
「なんで?」
「ん?そんなことできるんだーと思ってさ。深い意味はないよ」
「なら、いいけど」
「さてと、そろそろ出ようか?」
立ち上がりながら、御咲はいう。
「ん、ああ」
暁も立ち上がり、二人は店を出たのだった。

「はー美味しかった」
言いながら、御咲は伸びをする。
「そうだな」
「明日は私が...」
「君たちこんなとこでなにしてんの?」
御咲の言葉を遮ったのは、三人の若い男だった。
鼻にピアスをした奴が、ニヤニヤと笑いながら暁たちの前に、青い髪の奴が暁の脇に、長身で猫背の奴が御咲の脇に立つ。
「こんな時間に出歩いちゃ危ないよ。俺たちが送ってやるよ」
鼻ピアスがいう。
「結構です」
暁が答えると、青髪が鼻で笑う。
「てめえじゃねえよ。俺らが言ってんのはそっちの彼女」
「いいです...」
御咲が消え入りそうな声で言うが、男達は聞かず、御咲の腕を長身猫背が掴む。
「やめろ」
暁は長身猫背から御咲を引き離す。
そして、走った。
「あっ、待てごらっっ!!」
当然のごとく、男達は追ってきた。
暁は御咲の手を引きながら、路地を何度も曲がりながら追っ手を引き離しにかかる。
だが、逃げた場所が悪かった。
路地を曲がってすぐに、壁にぶつかる。
「いてえ...」
「大丈夫?」
「あ、ああ」
二人は引き返そうと振り返る。
しかし、そこにはすでに鼻ピアスたちがいた。
「ったく、面倒かけやがって」
「くそっ」
暁は懐から雷天の杖を取り出し、起動させる。
「あん?」
「くらえっ」
雷撃が飛び出した。
それは青髪の足に当たり、しびれさせる。
「ぐ...」
青髪が膝をついた。
暁は続いて、磁力を操作し、近くにあった鉄パイプを何本も引き寄せる。
「今なら助けてやる。逃げるなら逃げろ」
「てめえだけが能力を使えると思なよ」
鼻ピアスがいう。
鼻ピアスも、長身猫背も、逃げる気はないらしい。
「死ねっ」
長身猫背が、走り出す。
狙いは御咲。
御咲を盾に取ろうとしたのだ。
しかし、暁はそれを許さない。
長身猫背の左右から、殴るように鉄パイプが動く。
それらは、容赦無く長身猫背の腹を打った。
「ぐあっ!」
長身猫背は数メートル飛び、青髪に激突した。
「あとはあんただけだ」
「ほざけ」
鼻ピアスの言葉に、暁ははあとため息をつき、鉄パイプを操作する。
だが、それが鼻ピアスを倒すことはなかった。
鼻ピアスの目の前に突然球体が現れ、爆発し、鉄パイプを吹き飛ばしたのだ。
「なっ!?」
「くたばれっ」
球体が暁の目の前に現れる。
「くっ」
とっさに、暁は左手でそれを弾いた。
瞬間、パアアアアンという音ともに球体が爆発することなく消える。
「なんだと...」
「終わりだ」
鉄パイプが、再度鼻ピアスへと向かい、その顔の目の前で停止する。
「ひっ、ひいい」
鼻ピアスは長身猫背と青髪を連れて逃げていった。

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