《MUMEI》 気付かないうちに眠りに落ちていたらしい。 カーテンの隙間から射す朝陽と小鳥のさえずりに、重い目蓋を開く。 いくらも眠った気がしないが、時計を見るとそろそろ登校の準備をしなければならない時間になっている。 いつもなら母が声をかけてくる時間を、わずかに過ぎていた。 まさか・・・・。 甦る昨夜の悪夢に、微かな不安を覚えながら、居間への襖を開く。 父の進一郎が玄関口で、母にネクタイの結び目を直してもらっていた。 あまりに平凡な日常の風景。 「研究のほうが重要な局面に差しかかっていてね。また二三日、家を空けねばならない」 「そうですか・・・・」 どこか寂し気な母の声。 (嫌だよ父さん、行ったら駄目だ!) 父がこのまま、どこか遠くへ去って行き二度と会えなくなる、そんな気がする。 「おや。須佐男、もう起きて大丈夫なのか?まだ病み上がりなんだ。無理してすぐに学校に行く事は無いぞ」 「いつまでも寝てられないよ」 「そうか。だが無理は禁物だぞ。週末には帰る。そうだ。今度の休みは家族三人でディズニーランドに行こう」 「えーっ、本当?!」 「ああ。約束だ!」 心の中の不安が吹き飛び、その空間を期待と喜びが満たす。 「わーお!!ばんざーい!!」 思わず跳び上がった。 やはり昨夜の事は病み上がりの幻覚だったのだ。 前へ |次へ |
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