《MUMEI》

女王の真下、太い木の幹が湧いて現れ、女王の身体を捕らえて行く
突然のソレに反応する事が遅れ
全てを顕にしたその巨木は女王の全てを取り込むと
鮮やかな花を一斉に開花させ始めた
「嫌ぁ!!」
一つ、また一つと花が咲く度、女王が苦痛に歪んだ声を上げ
全身から血を流し始める
「……この方に近づこうとする者全て、この方自身の手で頃して貰おうと決めたのです」
ソレが、女王が持ち出してきたあのゲームの全貌
全てはこの男が裏で糸を引いていたのだ
其の事に今更に気づき、アルベルトは歯痒さに奥歯を噛み締める
「さぁ、あの男を殺してください。そして私だけの為に咲き誇ってください」
今、この男を動かすのは欲望だ
国を欲し、女王の存在を欲する、支配欲
「……して」
戦慄く唇が呟いた何か
読み取ってやったその言葉にアルベルトは眼を見開く
殺シテ、死ナセテ
向けられたその眼から大粒の涙を流しながら
拘束を解かれた女王はアルベルトへと近く寄る
首へと伸ばされる、細く震える指
避ける事は、出来た。それをしなかったのは
その手が縋る様なソレに見えたからだ
「……助けてやる。絶対に」
この状況で穏やかな笑みを浮かべて見せてやれば
その瞬間だけ意識は女王の元へと戻り、大きく頷いてくれる
助かりたいともがく意思がある。それだけで十分だった
首に触れるその手をやんわりと解いてやり
アルベルトは女王の身体を半ば強引に引き寄せる
腕に抱いてしまえば女王の全身が強張り、アルベルトから逃れようともがく
だがそれを許す事は決してせず
女王の身体を片腕で拘束したまま、アルベルトはト―リスへと向いて直った
「本当に、あなたという人は――!」
互いに対峙し、ト―リスは思う様に事が運ばない事に表情を歪める
苛立ちを顕わにするト―リスへ
アルベルトも怒の感情を抑える事もせず剣先を向けた
「人間一人担いだまま、私とやり合うおつもりですか?」
「そんなに重くないからな」
無謀だと嘲笑いたかったのだろうト―リスへ斬り返してやれば
ト―リスは更に表情を歪め腰に帯びていた剣を抜く
先に動いたのは、ト―リス
狙いはアルベルトではなく、その腕の中の女王
寸前でアルベルトの獲物がソレを弾いていた
「ヒトを庇いながらでは、闘い難いでしょう捨て置いてはいかがです?」
嘲るソレにアルベルトは短く断るを返し、素早く身を翻すと同時に脚を蹴って回す
その勢いを借り、ト―リスの獲物を弾き刃をへし折っていた
出来た、一瞬の隙
ソレを借りアルベルトは剣を握る手を逆手に持ちかえ、ト―リスの腕を斬り落とす
流れ落ちて行く血液
その中に落ちた腕は瞬間、花弁へとその姿へと変え
そのまま枯れて行った
「……もう、限界ですか」
段々と朽ち落ちて行く己が身を眺めながら
ト―リスはまるで他人事の様に呟いていた
「……まぁ、こういう幕切れも、気持ち悪くて面白いかもしれませんね」
嘲笑を自身へと向けるト―リス
その笑みが不意に消えた、次の瞬間
また剣先をアルベルトへと向けていた
ト―リスの様子に気もそれてしまっていたアルベルト
咄嗟にソレを弾く事は出来ず
腕を斬りおとされてしまう、と何とか体勢を変えようと試みれば
途中、女王が唐突に身をよじり、アルベルトの身を庇うように抱き返していた
「なっ――!?」
気付いた時には遅く
ト―リスの刃は女王の身体を深々と貫いていた
「……アルベル、ト様、御無事ですか?」
何が起きたのか、即座に理解する事が出来なかった
滴り落ちてくる血液
見た女王の顔からは段々と血の気が失せて行く
「……お怪我がなかったのなら、良かっ……」
言葉を発する度に降ってくる朱
落ちてくるその身体を受け止めてやり、胸に掻き抱く
「アルベルト様。その方を渡して下さい。私は、彼女と此処で朽ち果てます」
「……死にたいなら、テメェ一人で死ね」
女王の血液に降られ濡れてしまった顔を袖で拭いながら
アルベルトは剣を握り返すと。一瞬の間もなくト―リスへと斬り掛った
ト―リスは折れた剣先でソレを弾き避けたが
アルベルトはもう一方、右手に別の獲物を忍ばせる
剪定用の鋏

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