《MUMEI》
月の光
 一段、二段と明かりがユウゴの下にいるユキナの足元へ近づいてくる。

ユウゴは鼓動が早くなるのを感じた。

……もう、駄目か。

ユキナの足が照らし出されるまであと一段分。

ユウゴは観念して目を閉じた。

その時、水路の先の方でバシャンと音が響いてきた。

それに反応し、梯子を照らしていたライトが水路に向いた。
警備隊二人は頷きあい、バシャバシャと走り去って行く。


ユウゴはホッと息を吐いた。
やがて音が聞こえなくなった頃、サトシがゆっくり出口となるマンホールの蓋を開けた。
そして、そのまま上へとはい出て行く。
ユウゴとユキナも続けて地上へと梯子を登った。


 今が何時なのか知らないが、星の浮かんだ空に浮かぶ月の光が地上を照らしている。
ずっと暗闇にいたせいか、その光がいつもより明るく思える。

「おい、ここは大丈夫なのか?」
「警備隊、いない?」
二人の問いにサトシは辺りを見回しながら「多分」と頷いた。
「あいつらが囲ってる地域は市役所がある一ブロックだけだったから」
「それ、確かめたのか?」
「こっそりね。………見つかったけど」
「おまえ、度胸があるのか、馬鹿なのか」
呆れたようにユウゴはサトシを見た。
サトシは苦笑している。
「たまたま近づいてくる警備隊にみんなより早く気付いてさ。あのおじさんをなんとか倒して、すぐに下水道に逃げ込んだんだ」
「それで、下から地上を探ってたの?」
「そういうこと」
「モグラかネズミだな、おまえ」
「……あんまり嬉しくないなあ」
少し不満そうなサトシをユキナが宥めている。

 ユウゴは今の自分たちの位置を確認しようと、周辺の建物を確認した。

 どうやら市役所から少し離れた通りのようだ。
近くに川が流れている。
市役所がある方向には、月の光とは違う赤く揺らめく明かりが見える。
まだ延焼しているのだろう。
その上空には地上に向けてライトをあてるヘリコプターの姿も見えた。

「ここも長くはいられない。移動しよう」

ユウゴの言葉に、二人は真剣な表情で頷いた。

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