《MUMEI》
6話
「嘘だろっ」
夜の天空市を、暁は全力で駆ける。
雷天の杖のバッテリー(10分間)が尽きた今、暁には戦う術がない。
(どうする...?供給できそうな物はねえし...)
暁は後ろを振り返る。
御咲がいないのを確認し、進もうと前を向いた。
そこには、見知った女子がいる。
暁の紺のブレザーではなく、ベージュ色のブレザーをまとった女子。
「あんた、こんなとこでなにしてんの?」
「いや...」
「まあ、いいわ。今日こそあんたをぶっ飛ばしてやる」
闘志むき出しで、小さな犬歯を見せる彼女に暁はため息をつく。
「はぁ。如月(きさらぎ)...頼むから今日だけは勘弁してくれ」
「何言ってんの?この第3位の能力者の如月 浮遊(ふゆう)様が負けたまま引き下がれるわけないでしょ」
肩にかかるかかからないかという黒い短髪を掻き毟りながら彼女はいう。
「ああっ、めんどくせぇ!」
振り返り、如月から逃走しようと試みる。
が、そこには御咲が優然と歩いてきていた。
例の、朱雀を連れて...
(くそっ!後ろは如月、前は御咲...どうする!?)
最悪、両サイドからの攻撃を覚悟した暁だが、事態は思わぬ方向へ転がりこむ。
「あんた、どいてくれる?どかないと怪我するわよ」
如月が、御咲に言う。
「あなたこそ。この人は私が倒す...」
「うっさい。こいつを倒すのは、あたしの仕事なの。悪いけど、順番守ってくれる?」
「...。邪魔するなら」
朱雀が、翼を広げ、一直線に如月へ向かう。
「望むところっ!」
朱雀が、如月の頭を狙って急降下する。
しかし、それが如月に届くことはない。
彼女の数メートル手前で、突然、朱雀が壁にぶつかったように停止する。
直後、朱雀は弾かれるように後ろへ吹っ飛んだ。
それは俺の方へと...
「うわっ!?」
とっさに右手で朱雀をはじくと、朱雀は跡形もなく消え去る。
「...?」
御咲が怪訝な顔をした。
その戸惑いを、如月は見逃さない。
突如、近くにあった消火器が浮かび上がった。
そして、ビュンと御咲に飛ぶ。
「玄武」
冷静に、御咲は言った。
すると、目の前に亀?のような生き物が現れる。
それは御咲の肩ほどの高さで、三本の尻尾がヘビであることが特徴的だ。
消火器が、玄武に激突する。
すると、消火器はまるで空き缶を潰すようにグニャリと潰れる。
「やるわね...」
それを見た如月はギリギリと歯ぎしりする。
「けど...」
グワンと玄武が浮かび上がった。
「なっ...!?」
さすがの御咲も驚愕の表情をする。
「終わりよ」
玄武が、御咲へと落ちていく。
「やめろっ!」
暁は、思わず叫んでいた。
同時に、玄武が地面に墜落した。
御咲の、数メートル横に...。
「あたしが人を殺すわけないでしょ」
暁の方を見ながら、如月は言った。
「...」
暁は無言で如月を見返す。
ランクS、天空市第3位。
グラビティ・オペレーション(重力操作)。
ユニバース(宇宙)の異名まで持つ彼女に、勝てるものなどいるのだろうか...。
「っで、一体なんなの?」
「こっちが聞きたい」
暁と如月は、御咲を見る。
御咲は、自分の敗北が信じられないというように目を見開いていた。
「御咲、一体どうして...」
「 ...くっ。白虎」
御咲がいうと、白虎が現れる。
御咲はそれに飛び乗ると、きびすを返して去って行った。

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