《MUMEI》 テラ「……消えた」 「ええ。マボロシはなぜか倒すと消えるんです。攻撃ができるということは実体があるはず。それなのに死んだあとは消えてしまう。不思議ですよね」 凜は窓の外に視線を向けたまま言った。 不思議というなら、この家に足を踏み入れた時点ですでに羽田にとっては不思議なことだらけだ。 羽田はベッドの上に目を向けた。 「あれって、あの子でしょ?たしかテラっていう」 「そうです」 凜は丸い毛玉となっているテラを空いている片手で撫でた。 「この子は何なの?見たことない生き物だけど」 やはりこの世界に住む生き物も、羽田の世界とは違うのだろうと思いながら尋ねたのだが、凜は予想に反して首を傾げ、「さあ」と答えた。 「え、この世界の生き物じゃないの?」 「どうなんでしょうね?少なくとも、わたしが知っている限り、他にテラのような生き物を見たことはありません」 「そうなの?てっきりレッカ君のペットなのかと思ったんだけど」 「テラはマボロシ討伐の時、倒壊した家屋の下でレッカが見つけたらしいです。以来、レッカが面倒見ているんですが、いまだ正体不明です」 「へえ」 羽田は頷きながら、自然とテラの体に手を延ばした。 触れるはずもない。 そうわかっていながら、それでも試すようにテラの体に手をそっと乗せた。 柔らかなふさふさした毛並みを肌に感じる。 ほのかに温かいテラの体は呼吸に合わせて上下している。 「ひょっとして、触れるんですか?」 珍しく目を見開き、驚きの表情で凜は羽田とテラを見比べている。 「……触れる、みたい」 自分でも驚きながら、羽田はゆっくりテラの毛を撫でる。 その様子を見ながら、凜はそっと羽田の肩から手を退けた。 「え?」 その動きに気付き、羽田は凜を振り返る。 「どうですか?テラ、見えますか?」 言われて慌てて羽田はベッドの上をもう一度見た。 そこに、テラはいた。 羽田の手の下で気持ち良さそうに眠っている。 「み、見えるし触れるみたい。……え、なんで?」 困ったように眉を寄せて羽田は凜を見た。 「わかりません。けど、もしかするとテラはこちらの世界の生き物ではないのかも」 「と、いうと?」 「わたしたちの世界に繋がる生き物。二つの世界を繋ぐ媒体なのかも」 難しい表情で凜は考え込んでいる。 「わたしの考えではテラはマボロシの一種なのではないのかと思ってたんですが。いや、テラが媒体とするならテラといつも触れ合ってるレッカにも何かが見えたはず……」 すっかり考え込んでしまった凜を、羽田はしばらく眺めていた。 前へ |次へ |
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