《MUMEI》

 「陛下。こんな所にいらしたんですか」
事もほぼ収拾に至り翌日
身体の怠さを引き摺りながらも庭の手入れをと出てきたアルベルトは
先客の背に気付き、声をかけてやった
それに気付き振り返ってくる女王
アルベルトの傍らへと小走りに寄って行く
「お早う御座います。アルベルト様」
「お早う御座います。お早いですね」
「はい。目が、覚めてしまって」
だから庭を散歩していたのだ、と女王。はにかんだ笑みを浮かべて見せる彼女へ
アルベルトも微かに笑みを浮かべて返し、まるで子供にしてやる様に頭へと手を置いていた
「お体の方は、大丈夫なんですか?」
昨日の今日で辛くはないか、と問うてやれば
女王は表情はそのままに大丈夫を返してくる
「此処の方々がとても親身にしてくださるので。……こんな私なんかの為に」
それは罪の呵責からか
どうしても今の待遇が受け入れきれず、宛がわれた部屋を飛び出してしまうらしい
もう、気に病む必要などないというのに
「アルベルト様。一つだけ、お願いをしても、いいですか?」
徐な申し出
何かを返してやれば、女王はアルベルトの手を取り、そして
「……ゲームを、終わらせて頂けませんか?あなたの、この手で」
「――!?」
それはつまり、女王を殺す事に他ならない
なぜそんな事を今更に望むのか
その真意がわからず、アルベルト苛立ちに表情を歪めてしまう
「……私は、あの国の全てを狂わせてしまった。だから――」
自分だけがのうのうと生きる事など許されない、と
全ての責を自らの死で償おうとしている
だがそんな結末など、おそらくは誰も望まない
「……なら、俺はどうなる?」
「え?」
奥歯を噛み締め、呻く様な声。また言葉を丁寧に紡ぐ事を忘れ
それに驚いた女王が見上げてみれば、その身体をアルベルトが手荒く掻き抱いていた
「……なんで俺がこれだけ身体張ったと思ってる?」
「アルベルト、様……?」
生を、望んでほしい。求めてほしい。どれ程の罪の呵責に苛まれたとしても
死ぬ事で始まることなど、何一つ無いのだから
「……生きる事が辛いっていうなら、枯れるまででいい。俺のそばで咲いててくれ」
「――!?」
そうして欲しいと今時分切に願えば
そのアルベルトの腕の中、女王が両の眼に涙を溢れさせる
「……いいんですか?私、私は――!」
尚も自身を責めようとするその唇を、アルベルトは自身のそれで覆い
言の葉を喰ってやっていた
これで、自分の想いが伝わってくれればと
荒々しいそれから慈しむ様な柔らかなそれへと変えてやれば
女王は全身からその強張りを解いていた
「……これで、チェックメイト。あなたの、勝ちです」
「これは、勝負なのか?」
何か違うような気がする、と思いはしたのだが
負けを認めたにも拘らず、うれしそうな表情を浮かべアルベルトへと身を委ねる女王へ
アルベルトは困った様な笑みを浮かべて見せながら
女王の頬に流れたままの涙を拭ってやりながら、頬へとまた口付けたのだった……

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