《MUMEI》

ドアの内側を何かがカリカリと引っ掻いている音。
次の瞬間、ドアが内側から押される圧力で外側に向かって軋んだ。
本来トイレの個室のドアと言うのは、ドアの外側にいる人間とぶつからないように、内側に開くようになっている。
もし中の何かが外に出たいのなら、中からドアを引っ張れば良さそうなものだが、こいつは力押しする事しか考えていないようだ。
ミシリ・・・・、とドア枠が軋んだと見るや、今度はドーン!!と中からそいつがドアを殴りつけるような衝撃がドア全体を走り、須佐男は危うく弾き飛ばされそうになった。
すると個室の中から、 粗暴そうな男の声が響いた。
「開けろ!糞餓鬼!パパが帰って来たぞーー!!
どこかで聞いた事のある声。

いや! 知らない!僕はこんな奴は知らない!

何かが甦−よみがえ−ろうとするのを、須佐男は必死で拒絶した。

ドーン!!ドーン!!

ドアがガタガタと揺れる。

「知らない!僕はお前なんか知らないぞーー!」
「糞餓鬼ーー!俺を忘れたかー?!」

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