《MUMEI》
3.spirit〜精霊〜
「おら糞餓鬼ー!久し振りの父さんとのご対面だぞーー!」
ドア枠を止めるネジが衝撃を受けて、どんどん外れていく。

お前なんか知らない。お前なんか父さんじゃない!!
ドアを支える腕の力も限界だった。
あと二発この衝撃を受けたら、ドアごと蹴り倒されてしまうだろう。
理不尽な圧政に対する怒りが、十歳の
少年の心に、生まれて初めての他人に対する殺意と呼ぶべき感情を呼び覚ます。


消えてしまえ!!
お前なんか!!お前なんか!!


しかし十歳の少年の体力では、もはやこれ以上の抵抗は限界だった。
頭の中で血がゴウゴウと渦巻き、心臓が激しいドラムの音を刻む。
閉じた目蓋の暗闇の中で、何かの仮面のように見える映像がパッと閃−ひらめ−き消えた。
はるか遠くに浮かびあがったそれが、
再び闇に浮かんだ時、それは最初の
位置からこちらに近づいて 来ている。


何だ?・・・・あれは?


それは消えては現れ、その度に須佐男の方へぐんぐん接近して来るのだ。
心臓のドラムの音がさらに激しく、耳を聾−ろう−せんばかりに高なる。
大地震の前兆の地鳴りのように。
あるいは暗い未開のジャングルの奥地で、原始的な部族が半狂乱のトランス状態で
連打する、太鼓のリズムのように。

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