《MUMEI》

「いだっ!!!」

今宵は赤くなった額を押さえながら声をあげた。

そう、歩雪と触れ合ったのは今宵が思っていたところとは別の場所。

今宵と歩雪がくっ付いた、もといぶつかったのは互いの額だった。

今宵はやっと歩雪から解放されると、赤くなった顔と額を押さえながら叫ぶ。

「な、何するの歩雪くん!!!」

「こーがあまりにもオレのことを甘く見てたからね。警告」

「は?」

歩雪は立ち上がり、リビングのドアへ向かう。

「ちょ、ちょっと歩雪くん!?」

意味が分からないんですけど!?

今宵が慌てて立ち上がって引き止めると、歩雪は真剣な顔のまま振り返った。

「オレも男なんだけど」

「うん?知ってるけど?」

そりゃ女だったら困るよ、と今宵はいぶかしんでみせる。

まぁ女の人みたいにキレイな顔なんだけどね。

間違った認識をしているであることが簡単に予想が出来た歩雪は、ため息をつく。

「違くて。オレが持ってる感情は『ヤキモチ』なんて可愛げのあるものなんかじゃない。もっと遥に上の『嫉妬』だよ、いやそれ以上かもしれない。オレはこーに対してそんな厄介なものを持ってる男だって言ってんの」

「歩雪くん・・・・・・」

「さっきは途中で止めたけど、次はないから。覚悟しといてね?」

歩雪はそれだけ言うと再び足を踏み出し、今宵の家から出て行った。

しばらくの間呆けていた今宵は、へタン、と腰を落とす。

「な、何だったのよ〜!!!」

今宵の体からは力が抜けていて、しばらくはそのまま座りっぱなしだった。

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