《MUMEI》
川の流れ
 三人はとりあえず、橋の下に身を潜めた。
「ところで、さっき都合よく水音がしたのは何だったんだろうな?」

 三人仲良く川の水で手や顔を洗いながらユウゴは言った。
やはりあちらこちらと火傷をしているらしい。
水の触れたところがチリチリ痛んだ。

「ああ、あれは僕が持ってた時計を投げただけだよ」
「時計を?もったいない」
ユキナは濡れた顔を袖で拭こうとして、寸前で動きを止めた。

 服が異臭を放っていることに気付いたらしい。
当然だ。
下水道の水が染み込んでいるのだから。

「いいんだ。安物だし、壊れてたからね」
顔をビショビショに濡らしたまま、サトシは軽く頭を振った。
僅かに水滴が飛び散った。
「まあ、何にしても助かったよ。サトシがいなきゃ、死んでたな」
「うんうん」
「いやあ」
サトシは照れたように頭を掻いている。


「……さて、こっからどうするかな」
適当に汚れを洗い落とした三人は橋桁の下に並んで座った。
「そうね。ユウゴのせいで警備隊からも狙われる羽目になったし」
「え、俺のせいかよ」
「そうでしょ?あいつら、どちらかというとユウゴを探してたみたいだし」
「ま、僕らのリーダーと思われたんだろうね。一番最初にカメラに向かって挑発してたし」
サトシはいつもの冷静な口調でそう言うと肩をすくめた。
「まあ、そうだけど」
何か納得できないものを感じながら、ユウゴは舌打ちをした。
「まあいい。いまさらどうしようもないし、市役所を焼いたら、ちょっとスッとしたし」
「そうだね」
ユキナの声にサトシも頷く。
「あとは明日、サイレンが鳴るまで生き延びるだけだ」
ユウゴはグッと拳を握った。
「……そうだね」
さっきよりも声のトーンを落として、ユキナは言った。

「生き延びた後に、何があるのかな」
サトシは流れる川の水を遠い目で眺めながら呟いた。
つられるようにユウゴとユキナも川を眺める。

 今この町で起きている惨劇を忘れさせてくれるように、その流れは穏やかだった。

「ほんとに、何があるんだろうな」

ユウゴがそう呟いた時、川の上流から何かが流れてきた。

暗闇に浮かんだそのシルエットは俯せになった人間の姿。

流れゆく死体を見ても、もう何も感じることはなかった。

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