《MUMEI》

あの不可解な出来事があってからここ
二三日は、心の中のモヤモヤが束の間
晴れたような感じで、さわやかな気分の日が続いていた。
あの『力』の名残−なごり−が、自分の中にまだとどまっているような気がする。
そうこうしているうちに、父進一郎と
ディズニーランドへ行く約束の週末が迫って来る。
待ち遠しいな・・・・。
須佐男の心は踊る。
そんな、やけに夕焼けのきれいな木曜日の放課後。
木造アパートの階段 を上がり、自宅のドア前に立つと、中から母優子の笑い声と父進一郎の喋る声が聞こえてきた。

ウヒョーー!!父さん帰って来てたのかーー!!

喜び勇んでドアを開ける。
「まあ、あなたったら!オホホホ!」
父のジョークに母が笑い転げている。
父親がよく言うジョークを、須佐男は
はっきり言うとそれほど面白いと思った事は、一度も無い。
だが父がつまらないジョークを喋り、それに笑い転げる母親を見るのが好きだった。
「お!柴王家の王子様が戦場からご帰還あそばしたぞ!!」
部屋にはジャズ好きな進一郎の趣味で
かなり高価なコンポから、グレンミラー楽団のムーンライトセレナーデが低い音で流れている。

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