《MUMEI》
二月◆日(雪)
確定申告がやってきた。稼ぎの程度は推して知るべし。自分が何物であるかを思い知らされる嫌な季節である。なぜか冷え性な僕にとって、暖かくなる前の一番寒い時期であり、分が悪い。体温の高い三毛が暖めた寝床に、毎度、後から行っては潜り込むという軟弱振りである。立春とは名ばかりの。せめて戻ってくる予定のもので、焼肉でもしようか。そこはもちろん国産で。土鍋とともに天袋から鉄板は発掘している。今夜はカレー。肉なしだが、たんぱく質として豆をどっさり。野菜と水煮の大豆を煮込んで豆カレー。残った大豆を醤油で煎り、水分が飛んだら干し海老と混ぜ合わせる。小分けに冷凍しておけば、仕事中の飯の供に丁度いい。カレーだと誰しもテンションが上がるのはどうしてなのか。狭い室内に広がる香辛料の香り。案の定、入ってきた途端に反応した三毛は、肉なしという事実に不満そうだったが、意外と気に入ったようだ。豆類は腹にたまる。翌日は目玉焼きを載せてやってもいい。恐らく何時も通りなら、いないのだが。二日目のカレーの誘惑に勝てるものがいるだろうか。いや、いるまい。倒置法。僕の存在意義とは何なんだろうかと、思う。職業能力に生活能力、容姿は言わずもがなで身体能力に至っては、衰える一方。僕自体に価値なんかなくて、重要なのは、この暖かな布団だけなのかもしれない。卑屈になっているのではない。多分。少なくとも、旨い飯を食べて、安心して眠ることができる住処を僕は持っている。今までは、それで充分だった。全てを、背後で丸くなって眠る三毛の所為にする。僕は、ずるい人間だ。

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