《MUMEI》

 「……よくもまぁこの騒音の中で寝られるもんだな」
呆れた声が頭上から聞こえてきた
とあるアパート、その中にある一室
そこの床に掛け布団を抱くようにかぶっている前野 那智
昼過ぎになり、流石に寝すぎなのではと起こしに来た村山 基一は溜息交じりでその様を見下ろしていた
「……叩き、起こす?この音流石に近所迷惑だと思う」
「そう、だな。流石にこの騒音、奇声等々は近所迷惑だよな」
やれやれと溜息を吐きながら
だが村山はどうしてか前野を起こす事を躊躇している
「……ファイト。キイ君」
傍らに立つ幼馴染の岡本 千秋からの激励を受け、意を決したように前野の方を見据える村山
布団を引っ掴むと、一つ息をはいて一気にそれを引き剥がす
「那智〜。いい加減起きろ〜」
それでも一向に起きる気配はなく、村山はつい耳を塞いでしまう
アパート内に響く、騒音・轟音・喚く声
「……なっちゃん、すごいね」
この状況下で未だ熟睡する前野
呆れるを通り越し、いっそ感心してしまうほどの熟睡ぶりだ
「千秋、お前もう学校行きな。遅刻する」
「……分かった」
頑張れ、と改めて激励の言葉を村山へと向け、岡本はその場を後に
行ってらっしゃい、と手を振って見送ったのと同時、漸く前野の目が覚めた
「……うるせぇ」
起きぬけ早々、不機嫌極まりない声
村山を睨み付けてやれば、だが村山はそれを意に介することもなく
「那智――。お仕事――」
枕元に無造作に置いてあった眼鏡を村山は前野へと掛ける
視界がはっきりとすると同時に意識もはっきりとする
「……熨してくりゃ、いいんだろ」
寝ぐせづいた髪もそのままで
前野は寝に乱れた寝巻を脱いで捨てると、近く抛り置いてあったシャツを適当に羽織った
「基一、行くぞ」
「はいはい」
付いてこい、と村山を引き連れ
事の収拾へと前野は出向いたのだった……

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