《MUMEI》

公園に置き去りにしていたそれは、どうにかそこに残されていたらしい
「……どうして、見つけられるんですか?」
「は?」
見上げる様なその視線に咄嗟にこたえられずにいると
服の裾が微かに握られた
「……僕を見つけられるなんて、あなた位です」
「……そうか」
「僕の話、聞いてくれますか?」
どううやら話す気になったのか
元よりそのつもりでいた豊田は溜息を僅かにつくと相手をつれまた自宅へ
話しをするなら落ち着いた場所でとの考えに至ったらしい
「で?お前の話っていうのは?」
相手をソファへと座らせてやり、豊田は冷蔵庫からビール缶を取って出す
それを飲みながら、聞きの体勢にと相手の横へと腰を下ろす
横目でそれを確認するとか細く息を吸い込み
「……どうすれば、皆に好きになってもらえますか?」
明確な答えなど返してやれない問い掛け
どう返してやるべきか、と瞬間押し黙ってしまえば
「……僕が、人を愛してみれば、分かりますか?」
問い掛けに更に問い掛けを重ねていた
まるで今の今まで誰を思った事もないような口振り
豊田をすがるような視線で見上げると、求めるように手を伸ばす
「……女の人とじゃないと、いやな人ですか?」
「は?」
行き成り何を言い出すのか、つい怪訝な表情をしてしまえば
相手はどうしたのか、触れる寸前でその手を止めていた
「あなたに、触れても、いいですか?」
その手には、痛々しいと思える程ある傷跡
中にはまだ血の滲む真新しい物まであって
豊田を汚してはいけないと躊躇している様だった
此処でこの手を拒んでしまえば二度と触れてくる事がないような気がして
豊田はその手を取ると引き寄せる
「……服、汚れますよ」
突然のそれを、だが然して驚くこともなく淡々とした口調
豊田もそうだなを短く返すだけで放してやろうとはしない
「……あったかいです」
自身を包み込む豊田のぬくもりに安堵したのか
途端に力が抜け、崩れるように身体が崩れ落ちる
それを受け止めてやれば、穏やかな寝息
豊田の服の裾をしっかりと握りしめたまま、熟視してしまっていた
一体、この少年は何を、どうしたいのか
分かる筈もないそれに溜息を吐きながら
取りあえずは寝入ってしまった相手をベッドへと寝かせてやる
その際、抱いていたクマの人形はヘッドボードの上へ
並べてやり、豊田は起こしてはとその部屋を後に
ドアを閉めてやりながら
「……明日、気が向いたら話せ」
聞いてはやるから、と聞いてはいないだろうそれを呟いてやりながら
豊田はそのまま音も少なく戸を閉めたのだった……

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