《MUMEI》

フロアの一隅に目をやると、そこにはオーケストラの姿まで。
背を向けて指揮棒を振る太っちょの指揮者が、
須佐男のほうを振り返ると、赤ら顔に
人の良さそうな笑みを浮かべウィンクする。
いつの間にか蝶ネクタイにタキシード姿になった須佐男も、親指を立ててウィンクを返した。
その手には本物のトロンボーンが・・・・。
一巡して終了した曲を、今度はオーケストラと一緒に演奏し始める。



ここは・・・・何処−いずこ−?



虚空で巨大な円盤がゆっくり回転していた。
それは直径十キロはある、昔のレコードかCDのように見えた。
その巨大なレコードの上には、須佐男の暮らす街が乗っている。
今ナノマシーンが捉−とら−えたデジタル化された須佐男の意識は、そのようなものだった。
街の中心には柴親子のアパートがあり、
明りの灯る窓から虚空の彼方へと、
ムーンライトセレナーデのメロディが
流れていく・・・・。

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