《MUMEI》

深い蒼い海みたいな色がいい。


光に透かしたとき映り込む緩やかな輪郭




「このグラスにするんですか?」


「富岡……、七生は?
ああ。ハブとマングースだもんな。」
そんな得体の知れない見世物は見ないか。

……置いてかれてやんの。

「綺麗な色ですね」


「うん。でも少し小さいかな。あと一回り大きいやつないかな。」


「店員さんに聞いてみましょうか」


「あ、いいよ……」
富岡はグラス片手に消えてゆく。
あれじゃなくても良かったんだけど。

好意でやってくれたことだし文句は言えないけどさ。




なんだろ。
周りが目について仕方がない。
皆笑っている。
俺は切り取られて貼られたみたいに一人で硝子の棚を眺めている。


きっと何にも感じてない顔をして立っているんだ。

正直、自分が解らない。
体の細胞はすぐ変わっていくって聞いたことあるから、俺は気持ちだけ取り残されて今の自分が解らないのかも。




「ないそうですよ、残念ですね。」



「そっか。じゃあこっちでいいかな。赤いの。
安いからね。」
笑っている、人の彼女と硝子細工を眺める自分の不確定な神経に可笑しさが込み上げてきた。

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