《MUMEI》
from Miwa & You
気温が低く、吐く息は白い。
制服を竣吾にボロボロにされてしまった美羽も、その美羽に上着を貸した悠も、寒さに震えていた。
恐怖の震えは、お互い無くなっていた。
だが、会話も無い。
お互い、何を話せばいいのか、わからないでいる。
…………気まずい。
痺れを切らして、悠がついに口を開く。
「だいぶ今更だけど……大丈夫?それと、ごめん」
その今更というのに、美羽は微笑み、同時に疑問を持った。
「何で謝るの?」
その答えは、待たせる事なく、続いた。
「俺達の文通の……タブーを破って、こうして会いに来ちゃってさ。結果で言えば、良かったんだけどさ」
竣吾の毒牙から救い出せたとは言え、悠は最初、それすら知らなかった。自ら率先して、タブーを破った。
「君を……不幸から救いたかったんだ」
その言葉に美羽は瞬時に反応し、顔を紅潮させた。
悠は悠で、先程までの楔に恥ずかしい台詞を言っていたおかげで、完全に麻痺していた。
「手紙を見てさ。俺なんかより不幸な人がいて、それを目の当たりにして、俺は、なんとかしてあげたいって、本気で思ったんだ」
不幸。そのワードに反応し、美羽の視線は落ちる。
「つい最近までは、俺が一番不幸なんだ、って思ってたのにさ。でも文通をして、考えを改めた。それに、気付かされた事もあったし、俺、多分変われたんだ」
悠は変わった。
だが、美羽は……変われていないと思い込む。
悠と出会っても、希望は失われたまま。
絶望の淵の中のまま。
悠はそれを承知の上だ。
「それに……えと、その文通をしてて思ったんだ……。俺はMiwaさんの事が…」
悠は言いづらそうに頭を掻きながら言い淀む。
それに美羽は首を傾げるばかり。
「何が言いたいかと言うと……俺は君の事が気になってるというか……」
肝心な言葉がうまく口にできない。
「君に……け、懸想しているんだ!」
「けそう?」
不発。
勇気を振り絞って出した言葉が、まさかの不発。
この時点で、悠は半分ヤケクソになる。
「ああああああ!回りくどい言い方はやめる!」
寝癖のついた前髪をガシガシと掻く。
そして、顔を真っ赤にさせながら、悠は美羽に、言い放つ。
「俺は君の事が好きだ!」

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