《MUMEI》

「俺は君の事が好きだ!」
殆ど勢いに乗ったまま、悠は叫んだ。
語尾がだーだーだー…、と公園中にエコーが掛かる。
いつの間にか鳴り出していたオルゴールの音が渇いた空気に同調するように広がっていく。
「ひゃあああ!?」
美羽の悲鳴は自分が出しているとは思えないほど高かった。
悠は耳をやられ、怯んだ。そっと深呼吸して、話し出す。
「俺は家庭で色んな事があって、それに絶望して、引きこもりになった。でも、俺は誰かに見ていてほしくて、引きこもりをやめようとしたんだ」
美羽は悠の話を黙って聞いている。それが、悠には有り難かった。
「でも上手く行かなくて。外に出ても辛い事だらけで……自殺志願者だったんだ、俺」
お互いの表情は暗くなる。
「そんな時に、君の手紙を見たんだ」


―――あなたは、今、幸せですか?


「心を抉られたようだったよ」
苦笑した。
美羽はついさっきまでの自分を思い出し、眉を顰める。
「でも、そのおかげで、色々と考えさせられたんだ」
情、負、幸せ、不幸―――
言い出したら、キリがない。
「特に考えたのが、幸福ってやつでさ。一応、自分なりに答えを出して、それを実行しようと思う」
「何を、するつもりなんですか?」
美羽に向かって、悠は一歩踏み出す。
美羽は顔を引きつらせて生唾を飲む。
悠は、美羽を、優しく、静かに、抱擁した。
「人が幸せになるには、恋をすればいいんだと思うんだ」
静かに、囁く。
それが悠が出した、答え。
クサい、台詞。
悠らしい、答え。
それは当たり前の事で。
だからこそ、難しい答えだった。
「俺は今、君に恋をしている。いくら過去が不幸でも、俺は今、十分幸せだ」
悠と美羽は見つめ合い、悠は何年ぶりかの、満面な笑顔を見せる。
幸せでないと、できない、その笑顔。
「その幸せを、君に分けてあげたい。勝手だけど、君に宣言したい」
笑顔の次は、今までしたことも無いような、真剣な目で―――


「必ず君を、俺に惚れさせる」


それから、三分ほどの沈黙が訪れた。

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