《MUMEI》

「バスに戻りませんか?」
富岡に手を引かれる。
突然だったので手から小銭が零れた。



「はい」



「ありがと…………」
お礼の一つもまともに言えない。水瀬は丁寧に俺の掌に百円を乗せて彼氏の傍へ走ってゆく。



「もしかして、富岡に気を遣わせた?」
道なりに入口へ戻る。



「…………まだ忘れられないんですよね?」
富岡もグラスを一つ買っていた。
俺が見ていた蒼いグラスだ。
硝子工房のビニールを下げながら彼女は明日の天気でも尋ねるように言う。


「どうかな」
解らないもの。


「そうですよ。
だって、そうじゃなかったら…………」
止まった。
そうじゃなかったら何ですか。







「おせーよ!」
七生が駆けてきた。


「洞窟入ったよ!内館の頭すげー変わったよな。」
東屋が言うより早く気が付いたよ。すっかり雨の日の寝癖だ。
つーか、君達ハブとマングース見に行ったんじゃなかった?

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