《MUMEI》
対岸
「ねえ、まさかここで夜明かしするつもりなの?」
そうユキナが言ったのは、三人が座ったままウトウトし始めた頃だった。
「あぁ?いまさら動くのも危ないだろ。なあ?」
「そうだね。真冬じゃなくてよかった」
「まったくだ」
ウンウンと頷く二人をユキナは鋭く睨んだ。

「あのな、こんな状況で寝床なんて選んでられねえだろ?」
「……ここなら安全なの?吹きさらしだけど?」
「だからいいんだよ、姉ちゃん。もし見つかってもすぐ逃げれるし。なにより、あいつらもまさかこんな所に僕らが隠れてるとは思わないはず」
「その通り」
「へえ、仲がいいのね」
間違ったことは言っていないはずなのだが、なぜかユキナの冷たい視線が痛い。

「だから、今日はここで朝を待つ」

ユウゴが断固としてそう言うと、しばらく無言で何か考えていたユキナも渋々頷いた。
「あと、一日だもんね。明日が過ぎたらベッドで寝れる」
「おまえの心配は寝る場所だけか」
「失礼ね。他にもあるわよ」
「たとえば?」
「……お腹が減った」
ユキナが言ったと同時に誰かの腹の虫が鳴った。
三人は顔を見合わせ、ため息をついた。

「どんな時も……」
「お腹は減るよね」

ユウゴの言葉をサトシが引き継ぎ、もう一度ため息をついた。
「カンパン、食うか?袋はびしょ濡れだけど、中身は大丈夫」
 ユウゴはそう言うと、鞄から倉庫から持ち出したカンパンを取り出した。
それを三人で分け合って食べる。
「……味、わかんないや」
「だな」
「ね」
三人の意見が一致した時、川の対岸にユラリと動く人影が見えた。

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