《MUMEI》

 「……お早う、ございます」
翌日、すっかり熟睡してしまった相手が眼を覚ましたのは昼もすっかり過ぎた頃だった
当然豊田は仕事に出掛けており
一人きりどうしようかと所在無げに辺りを見回して見れば
ダイニングテーブルの上に一枚、紙切れが置いてある事に気付く
(朝飯は冷蔵庫の中)
一言それだけが走り書いてあった
そのメモをしばらく眺め、そして冷蔵庫を開けてみれば
そこに、皿に盛られたサンドイッチがとデザートなのだろうヨーグルトがあって
残さず食べる様にとの旨が書かれたメモがまた貼り付けてあった
「……忙しかったんだろうな」
一枚目のメモより更に雑になっている文字に肩を揺らしながら
サンドイッチとヨーグルトを取ってだし食べ始める
「……僕、あの人に何を望んでいるんだろう?」
偶然出会っただけの相手
たったそれだけの関係だった筈なのだが
「……言葉にすれば、全部伝わる?」
自身の全てを理解して貰いたい衝動に駆られていた
望んでも叶えられず、当の昔に諦めてしまった望みだというのに
それをどうして豊田には望む事をしてしまうのか
考えても、自身の事だというのに何も分からず
いつの間にかテーブルの上に置かれていたクマたちを腕に抱くと
縋るように、その場へと座り込んでしまっていたのだった……

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