《MUMEI》
桃花
「うわっ痛っ!なにすんだてめー!」

「あっ?別に。タバコ屋来てめそめそとお前こそなにしてんだコラ」

「別になんでもねえよ。がんげいねえだろうがコラ。グス…。お前にがんげ…かん…あーん・゜・(つД`)・゜・」

あちゃー。やっちまった私。子どもみたいに大声で泣いてしまった。投げ飛ばされて床に転がりながら泣いてしまった。啖呵切ってやろうと思ってたのに、世界一不幸な私は泣いて泣いて泣き叫んだ。私を投げ飛ばしたタバコ屋さんの姉さんはチッと舌打ちすると、店の扉を閉め、カーテンを閉じてくれた。

しばらく泣いたあと店の端に置いてあったボロボロの木のベンチに座って落ち着くまでボーっとしていた。するとタバコ屋さんの姉さんが私が買おうとしていたタバコと、パチンコダスゾーと印刷してある胡散臭いライターを私に差し出した。
「いっぷくしたらとっとと帰れ。商売にならねー」
「ごめん。ありがと」
私はタバコに火を付け、深呼吸するようにおもいっきり吸って、おもいっきり煙を吐いた。すごくおいしかった。
「ふー。ああなんかうめえ」
「おっさんかお前は。それ吸ったらとっとと帰れよ」
「うん。本当ごめん。ありがと」
投げ飛ばされたのにごめんにありがと。なんじゃそりゃ私。まあでもいいか。こんなに泣いたのは久しぶりだった。そのおかげですごくすっきりした。だからもうどうでもいいや。さっきまでごちゃごちゃと頭の中にあったものが、全部流れて出た感じだ。
さあ帰ろう。帰って部屋の掃除して、洗濯して、いつもの定食屋さん行ってうまいカツ丼食って、ビール飲んで録り貯めしてある連ドラ見よう。今日は土曜日。明日は日曜日。来週からまた頑張ろう私!でも帰る前にやっぱり気になったので私はタバコ屋さんの姉さんに聞いてみた。

「ねえ。なんで投げ飛ばしたの?」
自分で言っても変な質問だ。自分で言っているから余計にそうなのかもしれない。するとタバコ屋さんの姉さんは売り物のタバコの一箱の封を破り、一本口にくわえて火を付けた。
「あっ?変な質問すんじゃねえよ。当たり前だろうが。お前がバンッて小銭叩きつけた音にびっくりして、送信しちまったからに決まってんだろうが」
はっ?送信?なんのこっちゃ?
「送信てなに?」
「メールに決まってんだろうがバカかお前は。あーくそありえねえ。こんなの送るつもりなかったのによ。お前のせいだバカ」

さすがに何度もバカバカ言われたら腹が立つものだ。私はムッとした。
「バカバカ言うな。いいだろうがメールのひとつくらい」
「良くねえよバカ。あーくそ。もう!」

私はここでふと思った。どんなメールを送ってしまえばそんなに後悔するんだろうと。メールの内容が気になった私は、さっき放り投げられた報いじゃと思い、頭を抱えて悩んでいる彼女の側に置いてあった携帯をサッと盗みとると、メールの送信履歴を見た。それに気付いた彼女が、
「あ!おいバカ!やめろ!」
と奪い返そうとしたが時すでに遅し。私はさっき送ったメールを見てみた。そこにはこう書かれていた。
「おはよ♪早く会いたいニャンニャン(*´∇`*)早く私をさらいに来てーん♪ラブラブ♪」

「ニャ、ニャンニャン?は?」

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