《MUMEI》

どうしたものかとつい溜息を吐いてしまった、次の瞬間
「……二人共、こんな所で何してるの?」
背後からの声に振り返ってみればソコに、帰宅途中なのか岡本が立っていた
もうそんな時間かと携帯を開き掛けて
「今、テスト期間だから早いの。それで?二人は、何してたの?」
小首を傾げてくる岡本へ
その問いは尤もだと前野は肩を揺らしながら
だが何を言う事もせず、花宮へと顎をしゃくって見せる
「……ご奉仕?」
一体、この状況が岡本にはどう見えたのか
あらぬ誤解を招きそうなその表現に、村山は苦笑を浮かべながら
「……千秋。そういうこと大声で言っちゃだめな」
やんわりと咎めてやる
どうやら岡本は友人と一緒だったらしく
その友人たちは岡本の言葉を気にする風でもなく
前野達を見るなりざわつく事を始めた
「友達もいるんだし。な」
「……それなら、平気。皆、二人ばっかり見てるから」
自分の言葉など気に留めてはいない、とのそれに
前野達は深く溜息を吐き、返す言葉を失ってしまう
「……それで?二人は、何してたの?」
改めてそれを問うてくる岡本
どうしても気になるらしい彼女へ
前野が漸く閉じていたその口を開き、ここに至るまでの経緯を説明し始める
「……そんな事して、なんか意味ある?」
冷静なその指摘に、前野らが尤もだと肩を落とせば
岡本は何を思ったのか、くるり身を翻し花宮へと向いて直った
「……あなたは、本当の姿を見せてない」
人差し指を突き付けてそのこと指摘してやる
試着室から出るなりのその指摘がどう言う事なのかがわからない様子の花宮
問うように小首を傾げて見せた
「恰好は、良し。流石、なっちゃんとキイ君」
「褒めてくれんのか?」
「うん。後は、お化粧」
言いながら、岡本が取り出したのはメイク落としのシート
それを何に使うのかは大体予想がついた
「……こんな所でやんのか」
前野の指摘に、岡本は小さく頷くと、そのシートで手際よくメイクを落とし
何処に携帯していたのか、取り出した化粧道具で花宮の顔を塗り始める
「どう?少しは、自然に見える?」
仕上がりを見せてくる岡本。
上々の仕上がりに前野はわずかに口元を緩ませた
これで、花宮の方の準備は整った
「で?那智。これからどうする?」
「あ?これから?」
村山からのそれに
前野が花宮次第だと顎をしゃくって見せれば
突然話を振られた事に花宮は動揺し、視線を彷徨わせる
「も、もう少しま、待って」
心の準備が、まだ出来ていないとの花宮
一体どこの乙女だと深く溜息を吐いてしまう
「……阿保。俺らだっていつまでもお前に付き合ってやれる程暇人じゃねぇ」
「なにそれ!?ちょっと酷くない!?」
「知るか、阿保。文句があんなら後はテメェで何とかしろ」
「――!」
黙り込んでしまった花宮
前野も無言のまま互いに対峙し、何の進展もないまま数分
不意に、前野の服の裾を岡本が引く
「住人のメンタルケアも、管理人の大きな仕事」
振り返ってみればなっすぐに見上げられ
この岡本の目にどうしてか弱い前野は返す言葉を失い
仕方がない、と深く承諾の溜息をつくばかりだ
「……ありがと。なっちゃん」
「流石の那智も千秋には弱いな」
からかう様な村山へ
前野は睨むような視線を向けながらも
だが何を返す事もせず、これからどうするのかを改めて考え始める
「会いに行ってみるのが一番早いんじゃないのか?」
そう提案してきたのは村山
最もそれが一番手っ取り早いだろうとのそれに
花宮は勢いよく首を横へと振って見せる
「だ、ダメ!今、あの人仕事中だもん。迷惑、かけたくないし」
乙女度は益々上がり、だがならばどうすればいいのか
段々と考える事すら億劫になってしまい
後少しで匙を投げ出してしまいそうなる寸前
「……なら、メール、打ってみたら?」
「メール?」
「そう。それならあんまり邪魔にならないと思う」
会いたい旨を掻いて送ってみてはどうかとの岡本からの更なる提案に
花宮は暫く考え、そして頷いた
「……アパートのロビー、使ってもいい?」
会う場所を手近なソコに決めた様で許可を求めてくる
場所提供位ならばしてやると承諾してやれば
花宮は取り敢えず旨を撫で下ろしていた
「でも花宮さん。今日仕事は?」

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