《MUMEI》

「どうしたんですか?具合が悪いですか?ログアウトしましょうか?」

改めて世界の美しさにまどろんでいると、パタパタと羽を動かす小人アバターの高性能AIが、立て続けに質問を音声として響かせる。

「あ、あぁ…大丈夫だよ。アリガトな。」

「そうですか。体温、脈、呼吸、共に平常ですが、気分が悪くなったら直ぐに言って下さいね。強制ログアウトしますから。」

「うん。信用してるぜ、アイ。」

アイというのはこのAIの名前だ。(AIを普通に呼んで付けた)
この高性能AI・アイは現実世界の俺の健康を常に察知してくれている、冒険を始めるにあたって種族を選べる、案内人のようなものだ。

「はい。今日も張り切って行きましょう。」

邪気の無い穏やかな笑顔は、プログラムされた物とは思えない程に愛くるしい。

そして今、俺が居る場所は、このアイと出会った街である。
つまり此処は最初の街。オリガルトだ。

建物はヨーロッパ風で、塵一つ無い美しい街だ。それも、一定区間ごとに配置されたお掃除ロボのおかげだが。

このゲームにクリアというものは無いが、もしもあったならもうクリア済みの俺が、どうしてオリガルトに来たのか。
その理由はもう目先にあった。

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