《MUMEI》

じぃっとハルの顔を見ていると、視線を感じたのか、ハルと目が合った。

此処は市街地…つまりモンスターの出ない区域なので、人は現実と同じ様に行き交っている。

ハルは目立つ格好をしているので、他の視線に埋もれて、俺の視線に気付くのに時間がかかったのだろう。

「お、怒ってる…?」

眉毛に沿う様にして切られた紅い髪の隙間から、色素の薄い瞳と、ほんのりと赤く染まった頬が窺える。

「何が?」

「だから、その…。遅刻したくらいで、怒り過ぎちゃったかな〜って…。それで、機嫌悪くなったらどうしよう・って思ったんだけど…。」

「全然!俺が遅れたんだから、怒って当然だと思うぜ。それに、ハルがどれだけ怒っても怖くないから不機嫌になんかならないし。」

少し上から目線のからかった口調でそう言うと、ハルは照れた様に可愛らしく「もっと怒れば良かった!」と呟いた。

腹ごしらえに向かったのは(本当に味覚の神経を刺激しているので、割と明確な味がする)、駅前通りのターミナルストリートでも有名な喫茶店「FIRST」だ。
ここのオムライスは、他のどの店よりも安いが、どの店よりも実物に近い味がして、俺は気に入っている。


店内に入ると、いつものカウンター席に座った。

「俺オムライス!」

「私はコーヒーで。」

「毎度!」

元気な笑顔を見せて、早速奥の冷蔵庫へ向かった店主は、実はサーバー側の人間ではなく、たった今オンライン中のプレイヤーなのである。
この制度も、ミリオンヘイムオンラインの楽しみ所だと思う。

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