《MUMEI》

「…口の周り凄いよ、カケル。」

俺が店主のことを考えている間に、先にコーヒーがきていたハルは半分程飲み干していた。

「別に後で拭くし、オムライスが美味いから仕方ないんだって。」

そう言いながらもオムライスを口に含む。

「子供なんだから…。」

「そんな事言って、ブラックコーヒー頼んで砂糖とミルク入れまくってる奴も子供だと思うけど?」

「な…!」

絵に描いた様に図星、という顔をした。
ハルは、端から見れば大人びて見えるだろうが、実は普通の十六歳の女の子だ。一年近く一緒にいて、実感した。

「だって、ブラックコーヒーってすごく苦いんだよ?カケルも飲めば分かるよ!」

「俺飲めるもん。」

逆に俺は甘い物が苦手なので、素直に答えた。すると、ハルはブラックコーヒー(という名の只のコーヒー)を一気に飲み干してポーチをゴソゴソとしだした。

マズイ。

多分ハルは先に勘定をして、ベルゼフ城攻略に行こうとしている、のだと思う。

「ま、待って待って、ごめんって!俺が悪かったから!」

そう言うと…いや、言いながら口にラストスパートに差し掛かったオムライスをかっ込む。

俺が食べ終わる頃には、ハルは既に勘定完了。俺もハルを追うように、ポーチからジェルカードを取り出してオムライスの前の空を切り、「コードスキャン!」と勘定宣言。五秒も経たずに、チャリン、と勘定完了の合図がした。

「ご馳走さま!」

それだけ言うと、俺は喫茶店を慌てて飛び出した。

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