《MUMEI》
目玉焼き、でお話。
朝っぱらから喧嘩。それも些細な事で。


『黄身がとろっとしてない』

『え?』

目玉焼きの黄身を突っつきながら、昭(あき)さんが不機嫌そうに言う。

『俺、黄身がとろっとしてるのが好きなんだよね』

『え?俺は黄身固いのが好きなんだけど…』

てか、今まで食べてくれてたよね?俺の作った物は何でも旨いとかって。


ガタン、と椅子が音を立てて昭さんが席を離れる。


『俺、早出。もう行くから。』

『え?食べないの?』

チラリと目玉焼きを見て、ハアッって溜め息ついて…昭さんが出ていった。


付き合って1年、一緒に暮らし始めて半年。
こんな事が最近増えた。
最初の頃は、楽しいばかりで互いを思いやる気持ちもあったのに、最近は小さな溝が出来たみたいで不安になる……。

いつか、昭さんが俺に愛想尽かして、出ていっちゃうんじゃないかって。


食べ残された昭さんの分の目玉焼きをフォークに突き刺し、やけ食いしたら胃に凭れた。

…目玉焼き二個喰うもんじゃねぇな。会社に着いて、胃を擦りながらぼやいてると、後ろから肩を叩かれる。


『泰隆(やすたか)』

『んだよ、ねーちゃんか』

同じ会社に勤める二歳上の幸子ねーちゃん。因みに、昭さんと俺のキューピットだったりする。
ねーちゃんの友達の昭さんに一目惚れした俺に腐女子のねーちゃんが協力してくれたって訳。


『何ショボくれた顔してんのよ?ん、これ母さんから頼まれた』


『あぁ、ありがと。』

多分、夏物の衣類が入ってるだろう紙袋を受け取る。


『…で、昭の奴が浮気でもしたか?』

ニヤリと笑う御姉様。
腐女子的展開を期待してる感がアリアリ。

『…んなんじゃねーよ。てか、なんで昭さん絡みにすんだよ』

言えない…まさか目玉焼きの黄身の固さ如きで喧嘩したなんて…絶対馬鹿にされる。


『だって、アンタが悩む時って、決まって昭絡みじゃん!』

『う、うるせ〜な。仕事の事かもしれね〜だろ。』

ねーちゃんは、ギャハハ!と笑い、俺の頭をグシャグシャにする。

何でもお見通しのねーちゃんに辟易してると携帯が震えた。

『?!』

メール着信ありの表示。


送信.昭
件名.目玉焼き
今朝は、ごめん。


…昭さん、気にしてくれてたんだ。

ほっとしてる俺の手から携帯を奪ったねーちゃんが、ブハッと吹き出した。ヤバい、メール見られた。

『くくっ、何、アンタら目玉焼きでケンカ?ブハッ…』

『ねーちゃん、返せよ、いーだろ?笑うなよ』

笑い過ぎて涙目のねーちゃんから携帯を奪い返す。

『まぁ、そんなメールが来る内は大丈夫ね。しかし昭も丸くなったもんだわプククッ…あとでからかってやろっと!』

昭さんとねーちゃんは同じ部署内だから、嫌でも顔を合わせる。


『ちょっ、ねーちゃん。止めろよ。昭さんに変な事言うなよ?』


ハイハイと信憑性ない返事をしながら手を振り去るねーちゃんを睨み付け、メール画面を開く。


Re.目玉焼き
俺もごめん。明日は昭さん好みの目玉焼き作るからね。


我ながら甘いもんだ、と思いながらも送信ボタンをクリックした。



おしまい


*おまけ*

泰隆からの、可愛いメールを読み終えて、顔を上げる、と誰かの気配。

『はい、昭。頼まれてた書類。』

『おーありがとな。』

何故か、ニヤニヤしながら幸子が後ろにいた。

『なんだよ、ニヤニヤして、気持ち悪いな。』

幸子は周りに聞こえない様に小声で俺に耳打ちする。


『件名目玉焼き、今朝はごめん…ニヒッ。今夜は仲直りエッチですか?旦那さ〜ん。ごちそ〜様です』


『?!…おまっ、何で知って…つか、殺す!』

『いや〜ん、殺さないでぇ。』

なよなよしながら走り去る腐女子の存在を本気で消し去りたいと思う昭でありました、とさ。


本当におしまい。



……………………………

読んで下さった方ありがとうございました。

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