《MUMEI》

あのクエストの難易度が間違っているとしか思えない。

しかしクエストの受注を完了する際、浮かび上がるエフェクトの色が朱ではなく薄蒼だったので、既に誰かがクリアしている事は明確だった。

方法位なら俺は知っている。むしろこのクエストはそれが狙いだと言ってもいい。が、それは俺には出来ない方法だ。


それは、ギルド・パーティを組む事。


俺が最も避けたい道である。

人間不信。小さい頃から、これだけはどうにも直らない。

いっそ受注を取り消すか――…そう思ったが、それも叶わぬ夢だった。

この《難攻不落》というクエストは《必須クエスト》に指定されている。

必須クエストというのは、どのゲームにでもある、いわゆる 進行上なくてはならないクエスト である。

当然そのクエストをクリアしなければ今以上に強い敵とも戦えないし、ゲームの話も進行しない。

その事実を思い出し、深く溜め息を吐く。

どうしたものかと街中で頭を抱えていると、俺の肩付近をくすぐる吐息を感じた。

「大丈夫ですか?具合が悪いですか?ログアウトしましょうか?」

「あ…いや、平気だ。アリガトな。」

「そうですか。体温、脈、呼吸、共に平常ですが、気分が悪くなったら言って下さいね。強制ログアウトしますから。」

現在俺がゲーム内でまともに話せる唯一のキャラクター。
ミリオンヘイムオンラインのプレイヤーなら誰でもお馴染みの、高性能AI・アイだ。

俺が立ち止まったり、急に座り込んだりすると、直ぐにこの質問をしてくる。

心配してくれている――…と思いたいが、表情がいくら細やかでも、所詮はAI。プログラムされていると思うと、少し気が落ちる。

「「どうしよう…。」」

二つの声が重なった。

慌てて辺りを見渡すと、すぐ真隣に深くフードを被った少女がいた。

俺と同様、重なった声に驚いたのか、こちらを見て目を丸くしている。

気まずい沈黙が十秒程流れ、少女が口を開いた。

「こ、こんにちは。」

無視しようか迷ったが、とても出来ない、と思った。

少女の声は糸の様に細く、震えていた。

「…こんにちは。」

「…えと、奇遇ですね。ハモるなんて、その…。」

「そうですね。…あー…はい。凄い珍しい…ですね。」

おぼつかない会話すら終了し、またもや沈黙状態。

その沈黙の間に、俺はポンコツな脳をフル回転させ、会話を探した。

そして、先程まで頭を埋め尽くしていた物事が、つい口から出てしまった。

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