《MUMEI》

「俺はカケル。よろしくな。」

「私はハル。よろしく。」

挨拶を交わすと、少女は辺りを見渡し、俺の服の裾を軽く引っ張り、呟く様な声で言った。

「あの、フードを取るので、路地裏に行ってもいいかな?」

「…別にいいけど?」

返事をすると、更に強く裾を引っ張り、路地裏に入った。

それでも尚、辺りを見渡し、誰もいない事を確認すると、フードに手をかけた。


フードを取ると、美しい紅い髪が隙間風に靡いた。

「すげぇ…。」

これが実物と似ているとは、全く思えない。

毛先までしっかりと紅く染まっている。

俺はあまりの美麗さに、俺は言葉を失った。

「変でしょ、こんな髪。まるで血で塗ったみたいな…。」

「血?」

「うん。お母さんにもいつも言われてる。私は大嫌いなの。」

俺とは正反対の意見だ。

「そうかぁ?」

俺は喉を唸らせた。

「俺は好きだけどなぁ、紅い髪。赤は情熱の色だろ?すげぇ綺麗だと思うけど。」

軽く髪を触りながら言うと、ハルは耳まで赤くなった。

「な…そんなこと…!」

否定的に声を荒げるハルに、俺は目を合わせた。

「今のは普通に俺の本音。だって綺麗じゃん。」

数回口をパクパクさせてから、赤い顔のまま、斜め下を見つめて、微かな声で呟いた。


「本当に…?」


「うん。」

「じゃあ、フード…外したまま歩いてみようかな…。」

少し嬉しそうに髪をいじるハルは、とても可愛らしかった。

それを見て、俺は微笑みながら「いいと思う。」と助言を付け加えた。

するとそれに答える様に、ハルは満面の笑みを俺に向けた。

そのまま、嬉しそうな足取りでハルは一人で路地裏を後にした。
しかし、俺が付いてきていない事に気付くと、振り向いて俺を呼んだ。

「カケル?」

「あ、あぁ。今行くよ。」

逆光に助けられた。

茹で蛸の様な俺を見たら、きっとハルは馬鹿にしただろうから。

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