《MUMEI》
桜の色は嫌いです
佐久間のお婆さんは、俺を息子のように、可愛がってくれてた

40過ぎて、子供が授かったんだって

息子さんが亡くなって十年になろうとしてるって…
それでも、辛くても、生きてるって

飛行機事故で、大半の親族も無くしてるんだって
妹さんも……

悲しみに、大きさは無いのかも知れないけど

止めよう、考えるの…

退院して、とにかく仕事をしたんだ

他のことを考えなくて済むぐらい、働いたんだ

あの家には、一度も帰ってない
ファクトリーのほこりとカビの臭いのなかで寝泊まりしてた

二時間寝ればじゅうぶんだ
夢を見るのが恐い

桜の花びらが舞ってた

トウコの色だね…

桜の色は嫌いです

トウコは、もう、戻らないから

ヒトミちゃんから、聞いたんだ

何も話さず、何も見ず
トウコは永遠の眠りについたって

どうして、会いに行かなかったの!

そう、言われたけど…

たぶん、自殺を選んだときに
トウコは俺にサヨナラを行ったんだよ

じゃなきゃ、死ぬことなんて選ばない

親子の間に何かあったか知らないけど
トウコのサヨナラの意思は
俺にはわかるんだ

誰もわからないだろうね

でも、俺にはわかるんだ

俺なんかに関わったから、死んじゃったんだよね

それも、事実だよ

俺のサヨナラは、伝えられないままだ

何で俺、生きてるの?
この先何があるの?



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