《MUMEI》

不思議な事に、老人が語る内容は、いつも虎ノ介に懐かしさとも、デジャビュともつかない感覚を呼び覚ますのだ。
まるで遠い昔に、自分が経験した出来事のように・・・・。
虎ノ介はありありとその悠久の過去の
光景を、思い浮かべる事が出来た。
淡々と喋る老人の声に、虎ノ介はいつしか夢想の世界へ入り込んで行く。


三方を 山に取り囲まれた村。
高床式の建物が幾つも立ち並んでいる。
村に入る唯一の道である谷から、砂煙が上がる。
砂煙はぐんぐん村へと接近し、それと共に


ドドドドドドドドド!!!!!!


と激しい地鳴りのような轟音が高まる。
それは村へ押し寄せて来る、膨大な歩兵と騎馬軍団が大地を踏み鳴らす音だ。
短甲(古墳時代の鎧)を身に付け、手に手に槍や鉄剣を持つ大和王権側の兵士達が、砂煙の中から姿を現す。
それを迎え撃つように、奇妙な紋様が走る鎧を身に付けた男達が立ち並んで、
押し寄せる兵士達を睨みつけている。
鎧は大和王権側の兵士達の、胴体のみを覆う原始的な物とは別時代の物のように、肩甲や胸甲まで作られた精巧な物だ。
その鎧を覆う紋様は、虎ノ介と師匠が暮らす集落のはずれにある、アヌンナキをモデルにして作られたと言われる、巨大な遮光器土偶の神像の表面に刻まれた紋様を、どことなく思い出させた。
どんな材質で出来ているのか、それは光の加減で、虹−にじ−のような七色の光沢−こうたく−を時折放つ。
男達の顔や露出した肌は、後の時代の
アイヌ人やインディアンを
彷彿−ほうふつ−させる刺青で彩られていた。
その現代人から見るとどこか異相の集団である、アラハバキ族の男達の中に、
現在とは姿形の異なる虎ノ介がいる。

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