《MUMEI》

家を出て、ハイエースにユイを乗せ、走り出そうとした時だった

抜く手を阻まれたんだ

佐久間タクヤさんですね?

誰だい?
警察手帳

車を止めて頂きますよ

なんの権利で、そんなことを言う!

いいから、エンジン止めて降りなさい!

罠よ、奴等の罠だわ!

後ろから、ユイの声がした

構わずアクセルを踏んだんだ

待て!オイ、止まれ!

弁護士に電話をしながら、車を走らせてたんだ

兄貴が監禁されてる、
身代金要求の可能性がある
それに、俺が警察に追われてる、とね

殺人容疑で指名手配されてる?!

弁護士から、そう聞かされた
逃げるのは得策ではないと

狙いはユイだ、囚われたら終わりだぜ
逃げずにどうすんだい?
あんた、法律の専門家かも知れねーけどなぁ
殺されたら金じゃ解決できねーんだぞ!
まして、女はそれだけじゃねーだろ!

らちが明かない
能書き垂れてやがったから、電話を切ったんだ

別の弁護士に電話した
信じる信じないは勝手だ、ユイを保護できるか?

とにかく、此方へ来てください
それから、お話を…

兄貴を見頃しか?

そう、おっしゃられましても…

プチっ………
電話を切ったんだ

役に立たねーな…

女性弁護士に電話したんだけど、留守電……
ダメ元で用件だけ話して、切ったんだ

味方は、ゼロだな…

兄貴の家に、到着だ……

車椅子のユイ
圧倒的に、不利だな……

ファクトリーのパソコンにアクセスしたんだ
せめて、録音しとこうってね

行こうか?

はい

電話の電池、どれどけ持つか?……
どっちにしろ、時間はあまりねーよな…

車椅子を押して、兄貴の家に入ると、待ち構えてたよ

お早いお着きで、佐久間さん

渡辺が、勝ち誇った顔をしてやがったんだ



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