《MUMEI》

漸く返って来たかと思えば随分と頼りなげなそれで
所在なく伸ばされた腕を豊田は掴み抱きしめてやっていた
「……でも、豊田さんは、テディベアに似ている気がするから」
「は?」
「この子に、似てます。あなたは」
言いながら床に転がったままのテディベアを指さす
何処が似てるのだろうと横目見れば
相手の手が頬へと触れ、余所見をするなと言わんばかりに引き寄せられた
「……縋っても、いいですか?」
「……勝手にしろ」
「ありがとうございます」
漸く望む事の一つを口にした相手
本当に唯、身体を豊田へと凭れさせるだけで
それ以上の事を求めようとはしてこない
求めてくれなければ、与える事もしてやれないというのに
そのもどかしさに、豊田は苛立ちを覚える
自分こそ、この少年に何を望もうとしているのか
不意にそう考え、だが分かる事のないそれにさらに苛立っていった
「……僕の事が、要らなくてもいい。今だけ――」
縋らせてくれさえすれば充分だから、と
消え入るようなか細い声で呟かれたその声に
豊田は自身の中で、何かの箍が外れたような気がした
「……本当に、今だけでいいのか?」
そんな刹那的な関係で本当に満足なのか
豊田は溜息を吐きながら、床に転がったままのテディベアを拾い上げる
『言葉にしないと、何も始まらないよ』
若干声色も高くクマを演じてやっていた
よもや豊田がそんな行動に出るとは思いもしなかった様で
相手はあっけにとられ豊田の方をつい見やる
何かを言いたげに唇を開くが、同言葉にしていいかが分からないらしく
言葉の代わりにと言わんばかりにクマと豊田を一緒に腕に抱いていた
「傍に、居て欲しい、です」
「誰に?」
「……あなたに」
はっきりと、返ってきた答え
互いの間を隔てる様にソコにあったクマを押し退けると、直に豊田を抱いた
「……クマでなく、僕を、抱いてください」
豊田の全てを求めるかの様に
見上げてくる視線は相変わらず感情薄だったが
それこそがこの少年の訴えなのだろうと
その身体を掻く様に抱き、驚きに薄く開いたままの唇へと舌を滑り込ませる
豊田の全てを求める様に
見上げてくる視線は相も変わらず表情薄だったが
それこそがこの少年の訴えなのだと
その身体を掻く様に抱き、驚きに薄く開いた唇へと舌を滑り込ませる
「んぅ……っ」
塞いでやったそこから漏れ出すくぐもった声
息苦しさに背を叩いてくる手を取ってやり
唇を話してやる事はしないまま、ソファへと押さえつける様に拘束していた
「……抱くっていうのは、こういう意味で間違いないか?」
一応確認してやれば、相手は熱に浮かされたような表情
熱くこぼれる吐息に、豊田は自身の考えがあながち間違っていないと確信する
だがすぐに事に及ぶことはなく
豊田は相手の身体を横抱きに抱えるとそのまま浴室へと連れ込んでいた
入るなりシャワーの水を出し
振る水滴が互いを濡らしていく
「……水、冷た……」
「我慢しろ」
ヤるなら身綺麗に
そういう考えに至ったらしく、ゆるり着衣を乱していけば
その華奢な肢体の全てが露わになる
綺麗だと、思った
子供でなく、かといって大人でもないあやふやなそれに
豊田は異常なまでの色気を感じてしまう
そして同時に触れてみたい、とも
だが無理に扱えば壊れてしまいそうで
中々触れることが出来なかった
「……豊田さん?」
冷たさに震える声で名前を呼ばれたかと思えば
相手は豊田の首へと腕を回してくる
そして耳元へと唇を寄せながら
「……僕に、触れて下さい」
大丈夫だから、と続けられる言葉
触れてこようとはしない豊田の腕を掴み
自身の身体へと豊田の手を触れさせていた
「人って、こんなにもあったかかったんだ」
まるでそれを今の今まで知らなかったと言わんばかりの言の葉に
豊田は何を返してやる事もせず、ただその身を抱いてやる
ゆるゆろ触れてやればもどかしいのか身体を捩り始め
だがすぐに快感に身を震わせる
慣れないそれなのか、怖いと唇が言葉を形どる
自分が自分でなくなっていく様な感覚
振る水滴に流されこのまま消えてしまうのでは、と
相手の頬を、涙が伝う
「……豊田さん」
また名を呼ばれたかと思えば

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