《MUMEI》

「何か言ったか?カナ。」

笑いに紛れて、カナの口が動いた気がして、俺はカナを見た。

「……あ…。」

カナは硬直し、一瞬悲哀に溢れた表情をした。が、直ぐに一転。ぱぁっと向日葵の様な笑顔を咲かせた。

「なんでも無いよ!」

少し低めなカナの大きな声が、俺の鼓膜を貫いた。


少し、震えている気がした。


「そんなことより、お勘定!早く済ませてよね。」

ふざけた口調で俺とハルの目の前に手を出した。お勘定の意思表示だろう。
それだけでも顔の近くに手を出されたというのに、更に近付けてくるので、俺とハルは体を後方へ反らせた。

「わ、わかったよ。ちょっと待ってって。」

慌ててポーチを探り、ジェルカードを見つけ出す。

そしてそのまま見つけ出したジェルカードを《怒号灰迅》の前に持っていく。

すると、《怒号灰迅》の値段が紫のエフェクトで表示された。良い品物なだけあって、五千二百ジェルと割高だが、残金に多少の余裕はあるので、素早く空を切り、「コードスキャン。」と勘定宣言。

少し遅れてハルから「コードスキャン。」という声が聞こえた。

「はい。お勘定完了したよ。」

気が付けば太陽は水平線に面している。早くしなければ今日の内に《難攻不落》をクリア出来ない可能性がある。

俺は急かすように心掛けた。

「ハル、早くしないと陽が暮れる。さっさと行こうぜ。」

「あっ、そうね。楽しくて忘れてたよ。カナ、今日はありがとう。またね。」

ほぼ同時に踵を翻す。しかし、すぐ後ろからの呼び掛けに足を止めた。

「何処かに行くの…?」

カナはカウンターに両手を付き、身を乗り出している。

「うん。夜限定クエストに行ってくるよ。」

用件をハルが告げると、カナは「そう…。」とだけ呟いた。

カナの体は武器屋の陰に半分以上隠れた。

「行ってきます。カナ。」

感謝を込めて、左手に握った剣を軽く上に上げる。

「クエスト終わったら連絡するね。行ってきます、カナ。」

「うん。行ってらっしゃい!気を付けてね。」

先程までのカナの笑顔を視認し、俺達は歩を元に戻した。


「…ハルなんて……ライ…。」


後ろから、又、何かが聞こえた気がしたが、市街地を歩く人混みに紛れた。

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