《MUMEI》

「カケルっ!そういえば作戦とか何も考えて無かったけど!」

魔物の絶叫に反抗する様に、大声をあげる。

「魔方陣を使う奴はまだ出てこない。出てくるまで大体十五分。二人なら、それまでにこの二匹を倒せる筈だ!」

そう言う間にも、二匹は徐々に、しかし確実に近づいてくる。

流石に、圧倒される。

俺達の十倍にも迫る体格の魔物二匹の内、左の牛の様な魔物は鎖鎌を持ち、右の羽が生えた鳥の様な魔物は地に足を着いている。所持品は無さそうだ。

登場の仕方も何もかも、独りで来た時と同様だ。

「俺は牛頭をやる。ハルは鳥頭を頼む!」

「努力する!」

合図を交わし、同時に思い切り地を蹴る。

その動きを視認した牛頭は、一層大きな絶叫をかまし、鎖を俺の方向へ弾く。

「うぉっと。」

弾かれた鎖の先端部を、まだ鞘に収まっている《怒号灰迅》で受け止める。空中だったので踏ん張りが効かない事を予想し、衝撃を斜めに受け流す。
見事に俺の真横を過ぎ行く鎖は、大音量の高音を発しながら地面に突き刺さった。


ここで初めて剣を抜く。


ジャリイイィィン

武器屋で抜いた時と同じ様に、軽快なまでに重い金属音が俺の鼓膜を貫いた。

「行くぜ、相棒…!」

鞘を左手で腰に差す。右手に握り締めた剣を一度見てから、牛頭に向き直る。

地面に着地する前に初撃を与える為に、未だ地面に刺さっている鎖を空いている左手で掴み、力強く曲げる。
その反動を利用し、更に前進。倒れ込む様な姿勢のまま、牛頭に近付く。

眼前に牛頭の濃紺な腹部が広がった。そしてまだ速度の落ちていない俺は、執刀した剣を頭上に振り上げた。

「………っあ…!」

思わず漏れた小言は、《怒号灰迅》の風切り音に消された。

地面と垂直に剣を降り下ろす。思い切り力を込めると、鋼鉄の様な牛頭の皮膚を易々と切り裂いた。そのまま勢いが止まることなく、牛頭の足元に急降下して行く。

「ぐるるおぉおおぉぉぁぁ!」

攻撃を受け、牛頭は鼓膜を激しく震わせる雄叫びをあげた。予想以上の効き目だ。その叫びだけで漏れ出す魔力や殺気は、例えゲームとて感じるものが有る。

堪らないな、この感じ。

体中を巡る血液を感じ、俺は武者震いに似た寒気に襲われた。

「ぐるるおぁあ!」

浮かんだ意識を体に戻す。剣を今一度体に溶け込ませ、牛頭の顔を見据える。

叫び声と同時に繰り出されていた鎖鎌の鎌部分が、今頃俺の射程距離に届いた。鎖が長い分、重く鈍い動きしか出来ないのだろう。どちらかといえばスピード型の俺には、うってつけの魔物だ。

このままマジックポイント…つまり魔力を使わずにゆるりと潰しても構わないが、そうすれば魔方陣使いの魔物がフィールドに出現してしまうだろう。

仕方が無い。

俺はもう風圧を感じるまでに近付いていた鎖を剣で真正面から受け止めた。

「スキル発動。コード:レッグ・アシスト。」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫