《MUMEI》

のぼせてきた。
風呂に入らないでさっさと上がる。

纏わり付く汗や蒸気が息苦しさを増す。



鏡の前を通る。俺は弱くなった……。

臆病な自分を全て富岡に見透かされたようだ。鋭利な言葉で切り付けられた。


俺が痛いと思う場所を知っていたんだ。





なんて、洞察力。
なんて、知己。


彼女とは向き合えないだろう。彼女は俺を見ていたのに、俺は彼女を見ていなかった最低な人間だから、資格がない。

富岡には謝ろう。それで、もっと相応しい人と幸せになって欲しい。




前髪に滴り落ちる雫を掬う。



俺はもういいや…………。
手に滲んだ水分を払った。







「上がるの早!俺のこと置いて行きやがって!」

七生は俺の隣の空いてる籠に荷物を置いてく。



こめかみがまた痛み始める。
平常心でいれば大丈夫。喉元に込み上げるものを堪えた。


「七生が遅いんだよ。」

意外と日常会話なんて何も考えていなくても出来る。

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