《MUMEI》

携帯で時間を確認した村山が徐に問うてくる
「それなら大丈夫。今日、私休みだから」
「……この為だけにか!?」
「そう。今からお菓子作るの」
手作りの菓子でもてなすつもりでいるのか
その材料を買いに行く、と目的地をスーパーに定め歩き出す
「千秋。お前もう帰りな。友達、待たせてるだろ」
途中、岡本へと向いて直った村山が帰宅を促し
頷いてくれたのを確認し、岡本とはそこで別れた
それから近所のスーパーで材料を購入し、漸くの帰宅
相手へとメールを送った後、菓子作りを始める
だが
「……お前、相当不器用なんだな」
その手際のなんと悪い事か
作ると言っていたあの時の自信ありげな様は何処へやら
台所の悲惨な様に、前野は深く溜息をついてしまう
「……これは、なんと言うか」
流石の村山も絶句
余りの出来の悪さに、花宮は羞恥に顔を伏せてしまった
「……基一。お前、教えてやったらどうだ?」
仕方なしに村山へと話を振って見れば
村山は相も変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま
「俺より那智の方が料理はうまいだろ」
前野へと向いて治る
行き成りなぜこちらに話を振るのかと睨み付けてやれば
だが村山は意に介することなく、薄く笑みを浮かべて見せるばかりだ
「……教えて、くれる?」
上目づかいで強請る様に見上げてくる花宮
捨てられた仔犬のような眼での訴えに
暫く無言を通していた豊田だったが、深い溜息を一つ
「あー。溜息、ついた」
「……吐きたくもなるだろ」
苛立った口調で髪を手荒くかき乱しながらも
教えてやる気はあるのか、前野は台所へと入る
作ろうとしていたのはどうやらクッキーで
レシピ通り作ればあまり失敗する事など少ない筈のそれを
だがどうしてか派手に失敗してしまう
「……」
「な、何よ。その可哀想なモノを見る様な眼は!?」
「別に」
「うそ!どうせ下手だとか不器用だとか思ってるんでしょ!?」
「あー、はいはい。思って――!?」
斜めに傾いてしまったらしい期限に
こうなってしまえば取り繕う事などしても無駄だろうと所持黄な処を口にしようとした寸前
それを村山が背後から前野の口を塞ぐ事で止めていた
「大丈夫だって、花宮さん。ちゃんと食べれるから」
「なんかそのフォロー嫌!」
村山のフォローも不発に終わり
花宮の期限は益々悪くなっていく
その様に、面倒くさい女だと深く溜息をつく前野
これ以上どう取り繕えばいいのかを悩む村山
考える事こそ違うが互いに黙り込んでしまう
「……一緒に、作ってみる?」
徐に聞こえてきた声、その声の主はかえって来たらしい岡本で
音も少なく現れた岡本へ、二人は思わず驚く声を上げていた
「……二人とも驚き過ぎ」
そのあまりの驚き様に多少なり期限を損ねてしまう岡本
だがすぐに花宮へと向いて直ると、改めて作ってみるかを問うていた
「千秋ちゃん、一緒にやってくれるの?」
「二人でやれば、きっと大丈夫」
「あ、ありがと〜。千秋ちゃん」
心強い、と半泣きで岡本の手を取るとそろって台所へ
その後ろ姿を見送りながら
「……千秋って、料理出来たか?」
徐な村山の言葉
互いに知る限り、岡本が料理が得手だという情報はない
大丈夫なのかと顔を見合わせてしまう二人
取り敢えずは事の行く末を見守るしかなかった
「出来たぁ!!」
待つ事数十分
オーブンが焼き上がりを知らせる音を立てる
出来上がったそれの見た目は上々、問題は味
目の前に出されたそれを一つ取り、食べてみれば
「――!」
互いにその味に眼を見開いていた
「味、どう?」
出来栄えがやはり気になるらしい岡本と花宮
着たいと不安が入り混じった様なその視線に
前野はどう答えて返すがいいかを考えてしまう
はっきりと答えてやるならば決して美味くはない
一体、何をどうすればこの味になるのかと疑いたくなるほどのそれで
前野は村山にも食べて見るよう勧める
「これ、は……」
一口食べ、押し黙ってしまった村山
その村山もなんと返していいか困りきってしまっているようで
互いに、顔を見合わせてしまう
「……美味しく、ない?」
二人の様子に失敗して居る事を察したらしく顔を伏せてしまう岡本

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