《MUMEI》
1 とある日の朝
ーーー7月13日

 今日、全て集まった。



ーーー7月14日

 明日は満月。
 明日、全て決まる。





ーーー7月15日

 今日、君は死ぬ。





ーーー7月16日

 今日、君は生き返る。





チュン…チュンチュン…
耳に届く、つがいの雀達が奏でるさえずり。
清々しい程照る日光が作り出す、輝かしい朝日。
自分を包む、柔らかな花のようなかぐわしい香り。
肌を撫でた、若草の甘さを帯びた爽やかな風に、思わず身震いしてしまう。

そっと瞼を持ち上げると、見慣れた白い天井がやけに遠く感じられた。
しばらくそのまま天井を眺めていると、ぼやけた視界も徐々に鮮明になり、遠近感覚も戻ってきたようだった。
しかしまだ完全には目覚めぬようで、ぼうっとした頭で記憶を探り出す。

何だかとてつもなく長い、長い夢を見ていた。
でも、その夢がなんだったのかは全く思い出せなかった。


凄く重要で、大切な心の中に欠け落ちてしまったような軽い喪失感。引っかかってなかなか消えない落ち着かなさ。

なんだっけ、と考える度深い靄が濃くなっていくようだった。
思い出せそうな気配もないので、早々に諦めた。
しかし靄は簡単には消えてくれてはなかった。


ぐっと背伸びをすると、体に溜まっていた熱や力、わだかまりも溶け出していくようで、そのままベッドに倒れ込みたい衝動に駆られたが、しぶしぶベッドから起き上がる。

風になびいていたカーテンを鳴らし、お世辞にも都会とは言えない、低い屋根が連なった景色を眺める。
照りつける日光が屋根に反射して、朝露ともに輝く様は嫌いではない。

しばらく外の空気にあたっているとふと、目に飛び込んでくるものがあった。
 

小さな日めくりカレンダーである。昨夜破ったばかりで、今日の日付「5月17日」が中央に大きく書かれてあり、それ以外は特に装飾もされていなかった。

いや、問題はそこではない。


問題なのはその隣に掛けられた壁時計である。


その時計が示すには「午前8時2分」を指している。

ちらりと視線をベッドに向けると、長年愛用してきた黄色の目覚まし時計が、ちょこんと鎮座している。

その目覚まし時計はピッタリ「午前4時」を指している。
いや、それはありえない。もうすでに外は明るく、何より自分が目覚まし時計無しで4時なんかに起きた試しがないと不本意ながらも自覚している。

よくよく目覚まし時計を観察してみると長針短針秒針すら動く気配はない。ただ響くのは壁掛け時計の針を刻む音のみ。


たらり。
頬を水滴が伝う感覚がする。これは汗か。涙か。
急にまとわりつく空気の流れが粘つくような嫌な風になったのはきっと気のせいであろう。

とても嫌な予感が全身を駆け巡り、近くにあった携帯電話のキモカワと女子高生に絶大な人気を得て、ブレイク中の「ジョナサン」ストラップを掴み、乱暴に引き寄せる。
こいつが生きていたら断末魔の悲鳴の一つや二つ漏れていてもおかしくはない程だったが、気にしている余裕は全くない。

頼む、予感であってくれと祈るような気持ちでガラケーを開く。必死に文字盤を目で追うとーー



『 5月17日(月) 08:03 』


「にゃああああああああ!!!」

最低最悪の目覚めだった。


まさか、入学して早1ヶ月。
ーーーこんなにも早く遅刻してしまうなんて。

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