《MUMEI》
逆光
三人は眠気も吹き飛び、勢いよく立ち上がった。

暗くてよく見えないが、影は一人。
その動きから警備隊ではないことがわかる。

「参加者かな?」
ユキナの緊張した声が隣で聞こえる。
ユウゴは答えず、目を細めて対岸を見つめた。

 相手はユウゴたちに気付いているのか、いないのか、ゆっくり川に足を踏み入れた。
もともと浅い川なのだろう。
影は胴まで水に浸かりながら、ジャボジャボと確実に三人の方へ歩いてくる。

「どうする?逃げる?」
サトシが意見を求めてユウゴを横目で見た。
ユウゴは少し考え、首を横に振る。
「相手は一人だし、警備隊じゃない。せっかくうまく隠れてるんだ。これから移動すると、また見つかる可能性が高くなるだろ」
「もし、襲いかかってきたら?」
「そりゃ、やるしかないだろ?」
ユウゴがそう言っているうちにも影は川を渡りきり、三人のすぐ近くの岸にあがった。

 まだ顔は見えないが、なぜか歩き方が妙だ。
左肩が不自然に下がっている。
怪我でもしているのだろうか。

 影は一歩、一歩、ヨタついた足取りで歩き、ユウゴたちにようやく気付いたかのように顔を上げる。

そして、すぐ近くで立ち止まった。

月の光が逆光しているせいでユウゴたちから相手の顔は見えない。
しかし、相手からは三人の顔が見えているはずだ。

「やっと、見つけた」

少しの沈黙のあと、影は不気味な女の声で、そう言った。

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