《MUMEI》

一発大きく攻撃…。私の攻撃力なら、それよりも二、三撃を入れた方が良いのか…。
悩んでみるが、時が経過するばかりで、鶏から攻撃を受ける確率も高くなる。
何より、恐らく残り一分程度で魔方陣を扱う魔物が現れる。

一考に唾液を分散し続ける鶏と一度目を合わせ、離す。

一か八か…。

「きゃあぁぁぁああ!」

「ぎゅるるぉ?」

鶏が頭上に疑問符を浮かべている。それもそうだろう。つい今まで自身の周りを飛び回っていた奴が地表目掛けて落下しているのだから。

これは賭けだ。

私が今アイテムの効果が切れたフリをしている事がバレたら、至近距離の攻撃を面と向かって喰らう。

しかし、もしプログラムを読み取られ無かったなら――…。

「ぐぎゅるるるおおぉぉ!」

私の様子が目に入ると、鶏は急降下しだした。上昇時と同様に、攻撃機能は停止しているらしい。

鶏との距離二メートル、という所で、私は思わず頬を吊り上げた。

「ぐぎゅるぉ?」

鶏は左右に首を振った。急降下をゆっくりと休める。

「遅いのよ。」

その時、私は鶏の背後を取っていた。

上昇後、長めのモーションセッティングの時間があり、まさかと思ったが、やはり。
この鶏、上昇と降下の後、体勢を調えるのに、少し時間がかかるのだ。理由は大方、翼の大きさ等によるものだろう。

「ぐぎゅるぉおぉぉ!」

私の声が耳に届いたのか、鶏は百度を越える首の回転をした。そして私の姿をその目に捕らえただろう。

だが、もう遅い。

気付くまでの間、私はギリギリまで刀身に魔力を集中させていた。

人間と人間の闘いでは使えない`溜め´の手段だが、魔物には有効だ。そして勿論、魔力を溜めた刀身は通常よりも破壊力は上がる。

更に、その《洸雅の長剣》にスキルを掛けたなら――…。


「スキル発動。コード:アッシャー。」


刀身が朽葉色の光に包まれた事を感覚でじながら、縦に一閃。

「ぐぎゅるるるおおぉぉおぉぉ!」

「ぐ…!」

鶏がじたばたと動くので、軌道が曖昧になりかけたが、なんとか力づくで振り切る。

「ぐるるぁ…あぁ…。」

刀身が鶏から離れて数秒経つと、雄叫びはたちまちに小さくなった。

パアァン

動かなくなったと思えば、一瞬で鶏全体が粒子化した。光の粒子は、少し強くなってきた夜風に流れて、私を過ぎた。暗がりの光は美しく、つい見入ってしまった。はっとして振り向くと、既に光の粒子は夜空に溶けていた。

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