《MUMEI》
三月□日(晴れ)
目が覚めると、台所に苺大福が12個置いてあった。昨夜、三毛が携えてきた大量の苺のパックを探すと、1パック減っている。ストッカーに買い置きしてあった、つぶあんのレトルトもなくなっていた。乙女でも王でもなく、聞いたことのない銘柄だったが、少し丸い形で果肉は柔らかく、甘酸っぱい苺だった。よく見ると大福の大きさはそれぞれ微妙に違っていて、思わず笑ってしまった。一口頬張ると果汁が口一杯に溢れる。市販のものより食感が柔らかくて美味かった。三毛の姿はすでにない。晩飯の後で、苺を食べながら話したことを思い出す。こしあんとつぶあんだったら、どちらが好きか。僕は断然つぶあん派である。恐らく、持ち込んでいたのは、こしあんだったのではないだろうか。餅はどうしたのだろう。ものの本で調べてみると、白玉粉となっていた。白玉粉に水と砂糖を加えながら火にかけた鍋でよくかき混ぜる。苺をあんこで包んだ苺玉を作っておいて、後は冷ました皮に片栗粉を塗して包むだけ。僕が眠ってしまうのを待っていたのだろうか。ようやく仕事が終わって徹夜続きだったから、ほとんど寝落ち状態だった。仕事を増やした所為で、以前より食生活の乱れが頻繁になっている。といっても名もない文筆家に変わりはなかった。与えられた仕事をこなす日々である。いつもと違う出来事に不安になる。三毛は料理をしない。嗜好品もあまり口にしない。何も言わないのはいつも通りだったが、何か聞きたそうではなかっただろうか。眠りに落ちる前の、三毛の表情が思い出せなかった。それにしても、苺大福というのは冷凍できるのだろうか。思うに、作り過ぎだ。

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