《MUMEI》
6
…ちゃん…

…に…ゃん…

……兄ちゃん!!…


ゆっくり、目を覚ますと、そこには先ほどの場所に倒れ込んでいた。

「兄ちゃん、起きた?大丈夫?」

「ああ、杏、お前は大丈夫なのかよ」

「うん。大丈夫。なんせ兄ちゃんの上にいたんだから」

「なんだと!?」

それにしても、先ほど穴に落ちた…はずなのに、どうしてここにいるんだろうか。
だが、先ほどいたテレビのリポーターたちはいない。
いるのは、先ほど穴に落ちた人々と、エドウィンだけ。

…ここ、可笑しい…。

譬えるならば、そう、テレビの電源がついて、しっかりと映像も音声も流れているのに、
見る人間がいない。そういった感じだった。

「ここ、まるで鏡の世界だわ」

そういって現れたのは、髪を横で二つのお団子にまとめて、
上半身が着物、下半身がチャイナドレスのような変な服を着た、恭介と同い年ぐらいの少女。

綺麗な人だと思った。

「あなたもゲームの参加者なんですか?」

「そうよ。この世界に存在できるのは、参加者とNPC、ゲーム主催者のみなんだから。」

「鏡の世界って、どういうことですか?」

「ほら、あのタワーの位置。ちゃんと見てみたら?」

…穴に落ちる前と、立っている方向が逆方向!
他の建物も、みんな逆方向に立っていた。

「まだ、目を覚まさない人がいるみたいだから、秘書君はまだ説明を始めないみたいね…。
 そのうちにいろいろ考えてみたら?」

そういうと、彼女は背を向け、歩き出そうとした。が、止まった。

「そうだ、君、なんて言うの?私は麗華。リーファっていうの。」

「俺は…恭介っていう」

「忘れないでよーっ!私は妹の杏っていうんだよぉ」

クスリと笑みを浮かべると、また会いましょう、と一言残し、何処かへ歩き去って行ってしまった。



そのころ麗華は怪しい笑みを浮かべていた。

紫色の蝶の模様の付いたスマートフォンを耳に当てると、

「ターゲットの鴨を見つけたわ…。さっそく準備に取り掛かりなさい」

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