《MUMEI》
7
「皆様、おはようございます。まあ、今は夜ですけど…」

鏡の世界の上空に、エドウィンが現れる。

「これから、このゲームの案内人をさせていただきます、私を含めた三人の秘書をご紹介します」

エドウィンの後ろから、エドウィンと同じような格好をした二人が出てきた。

「私、第二秘書をさせていただいている、エドナと申します。以後、お見知りおきを」

凛々しい声を響かせたのは、藍色の長い髪の毛を風に靡かせた女性と思われる秘書。
エドウィンとは仮面が少し違うようだ。スーツもカーキ色。

「私は、第一秘書をさせていただいている、ゲームマスターに最も近い者。エドガーと申す者です。
 以後、お見知りおきを」

漆黒に光る髪、漆黒のスーツ。さすが一番というところか、高貴な雰囲気を漂わせている。

「さて、紹介も終わったことですし、本題へと移りましょうか。
 長い説明になると思いますので、今配布しているタブレット端末をご覧ください。」

何人ものピエロが、参加者たちにタブレットを渡していく。
これは…このゲームの主催者が作ったものか。
どこのメーカーの物とも違う。

「タブレットの、マニュアルというアプリを開いていただけますか?そこをお読みください。
 ゲームはもちろんこの世界で行います。このゲームも他のゲームと同様、アップデートやメンテナンスをすることがございます。
 その時は、一度現世に戻っていただかないと、巻き込まれて、NPCとして生涯をすごすことになりますので。
 アップデートをしますと、他の世界へ行けたり、新しい機能をご利用いただけるようになると思いますので、
 皆様、ごゆっくり。では、解散!」

自分のタブレットの『マニュアル』をタップしてみると、本のようにページがめくれるようになっていた。

「面白そうじゃん、なぁ杏」



…杏?

後ろを見てみると、杏はそこにはいなかった。
そこには杏のポシェットがころんと落ちているだけ。
今さっきまでそこにいたはずなのに。
どこへ行ってしまったのだろう。

確かに杏は、好奇心旺盛で、どんなものにも興味を示したり、いろんな人に話しかけたりする明るい奴だが、
知らない奴のところにひょいひょいついて行ったりするほど馬鹿でもないはずだ。

杏のポシェットを拾い上げると、
中身を見てみる。

…ふぅ、こっちは大丈夫のようだ。
母さんたちから預かった小瓶は、杏の鞄にしっかりと守られていた。

…心配だ。
鞄を置いていったのは、なにかのメッセージ?

どうする、こんな時…



灰色の鏡の世界の中で、もうすぐゲームが始まろうとしていた。


その陰で、奇妙に動く人影も―――。



「やめろっ!放せっ…!」

「こいつ…ガキのくせに強いじゃねーか。もっと押さえろ」

「ぐはっ………兄…ちゃ…」


その後ろでは、妖しく、怪しく…妖怪のような笑みを浮かべる女が…一人。

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