《MUMEI》

 「……あんた、こんな所で何してんの?」
翌日、仕事も終わり夕方
豊田はすぐに帰宅する事はせず、その姿はとある店の前にあった
入るか入らないかで立ち往生していた所に背後から声が掛る
「……あんたに最も似合いそうにない店ね」
どうしたのかを怪訝そうな声で問うてきたのは同僚
ごまかしてもどうせ無駄だろう、と豊田は身を翻しそして
「悪い。ちょっと付き合え」
有無を言わさず相手の腕を取りその店の中へ
入ったそこは玩具屋
子供用から大人用様々な並ぶ中、豊田が手に取ったのは
「……それ、もしかして麻帆君にあげるの?」
巨大な、テディベア
相手からの問うそれに、豊田は返す事はせず
ソレをプレゼント用にと包んで貰っていた
「アンタってさ、本当の所麻帆君の事どう思ってるわけ?」
店を後に、暫く歩いているとまたそんな問い掛け
どう思っているのか
それが簡単に分かればこれ程までにもどかしい思いはしていない
「少しでも好きだって思いがあるなら、言ってあげなさいよ」
「は?」
一体、何を言い出すのか
怪訝な表情を向けてやれば、平手で背を叩かれ
「此処で、押さなきゃ男が廃るぞ!がんばれ!」
言いたい事ばかりを言うと相手はその場を後にしていた
暫くそれを見送っていた豊田だったが
いつまでも此処に突っ立て居ても仕方がない、と帰路へ
「お帰り、なさい」
自宅へと帰り着けば、家事に忙しなく動くその姿があって
豊田は短く只今を返すと身支度を解きにかかる
丁寧に畳まれた洗濯物の中から自身の服を取ると、それに着替え始めた
「……おい」
着替え終わりと同時に相手を呼ぶ声
振り向いてきた相手の腕を僅かばかり強引に引くとそのままソファへと腰を下ろす
「あ、の……、何か……」
膝の上に乗せられてしまった事に動揺してしまい
だが構う事などしてやらず、豊田は先にソファへと置いていた包みの紐を解いて見せた
全体が露わになれば、相手の目がわずかに見開いた
「これ……」
「やる。いらんなら捨てろ」
「このクマ、豊田さんが選んでくれたんですか?」
問うてくるそれに、無言で頭を掻き乱してやる事で返せば
相手の顔が、わずかに綻んだ
「ありがとう、ございます。嬉しい、です」
以前、父親からもらったクマにはあ、あまり感情を露わにはしなかった
それが今、この瞬間にこの顔を見せてくれているのか
不思議で仕方がなかった
その答えを明確にしてやりたい衝動に駆られ、その身体を抱きしめる
「……そのクマのおまけに俺が付くって言ったら、お前どうする?」
半ば冗談めかして言ってみた言葉
どんな反応を返してくれるのか、相手をまじまじと眺めていると
驚いたような表情。見開かれた眼からは涙が一筋頬を伝った
「……駄目、です。貰え、ません」
「何で?」
「だって、僕なんか全然……」
何処までも自信を卑下する相手
更に否定するかの様に嫌々をし始める
聞きたいのはそんな自虐的な言葉ではない、相手の本音だ
「欲しいのか!?欲しくねぇのか!?」
もどかしさも限界でつい怒鳴ってしまい
だがそれが相手の本音をどうやら引き出したらしかった
「……欲しい、です。あなたが」
怯えさせてしまったらしく、身体をビクつかせながら
自身の望みを何とか口にする
拒絶される事を、突き放される事を恐れているのか、その身は更に震え
そんな相手を、豊田はそのまま押し倒していた
「あ、あの……、僕お風呂……」
「いらん。このままでいい」
「でも、汚……」
更に言葉を言い募ろうとして途中
これ以上は喋るなと言わんばかりに首に噛みついてやれば
痛みに身体を強張らせる
「痛……っ。や、ぁ」
触れてやれば、いとも容易く反応を示す身体
人並みに性欲もちゃんとあるのだと肩を揺らし
更に深い場所へと触れてやれば
「ダメ、です。怖、い……!」
どうにかして豊田の身体をどけようとしているのか手で押しやる
駄目、けれど嫌ではない
強く拒まれていないことが分かるから、止めてはやれなかった
「……んぅ」
「唇、噛むな」
漏れ出る声が嫌なのか、強く唇を噛み締める
薄く血の滲んでしまったそこへ指を触れさせ、開かせてやれば
どうしても声を抑えようと、豊田の唇へ噛みついていた

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