《MUMEI》 「おおおおぉおぉぉぉ!」 牛頭を倒し、ハルの闘いを観戦していると、背後に莫大な魔力と雄叫びを感じた。 直ぐ様振り向き、後方へ広い一歩分飛び退く。 「もう来たのかよ…。早いじゃねぇか。」 頬に苦笑のしわと汗を浮かべ、腰差しの剣に右手を添える。 と、そこで敵の雄叫びに紛れた甲高い絶叫が聞こえた気がした。気になり、更に耳を澄ます。勿論、敵から目は離していない。が、どうやら敵の雄叫びではない様だ。 ならば、誰――? この場に《話せる奴》としている甲高い声を出せる奴は……アイかハル。 その時点で誰かは決まっていた。 アイは闘いを好む性格ではなく、俺がクエストに出ている時は、俺の半径五十メートル以内に潜んで存在している。 が、絶叫をする理由はない。何故ならアイ等のゲーム側のAIは狙われないからである。それに、今までのどんなクエストでもアイは声を発した事が無い。 だから答えはすぐに出る。 俺は確信し、闇夜で目を凝らす。敵からは躊躇なく目を離す。見上げた視界の中で、こちらに近付いてくる影が動いた。まだ近くにはいないらしい。 しかし、聞こえた。 「カケル助けて!」 その言葉が、微かではあったが、耳に届いた瞬間。俺は落下地点に走り出していた。 間に合ってくれ! 「うぉらっ!」 俺は闇夜に浮かぶ影から目を切り、スライディングを慣れないながらも本気でやった。 そして直ぐに両手足に強い衝撃が舞い降りた。 前へ |次へ |
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