《MUMEI》

「大丈夫か?」

誰でも見られるヒットポイント欄は、ハルの減少と比べ物にならない程の、激しい減少を示している。

それはこの際仕方が無いとしよう。もしもハルを助けられなかったらきっと俺は一人で闘ってクエスト失敗していただろうから。

顔面を両手で隠していたハルは、驚いた事に泣いているようだった。俺がキャッチして直ぐにハルは顔を覆ったが、見た。

ハルは一粒ではあったが、涙した。

「…へ、平気よ。有り難う。」

顔を赤に染めきったハルが、少し余裕ぶってそう言い、両手を俺の肩につき、上体を起き上がらせた。

「気にすんな。」

言いながら、ハルが立つアシストを一緒に立ち上がりやってやる。
ハルの両手を取り、素早く上へ引くと、つられてハルは綺麗に立ち上がった。

「…こんなの自分で出来たのに…。」

ハルはしばしぼーっと俺を見つめていたが、はっと体をびくつかせると、両手を離し、装備の土埃をパン、パンと取り出した。

「別に良いだろ。俺がしたかったの!」

ハルが言ってからしまった、という顔をしたので、「こんなの自分で出来たのに。」は、本音では無いだろう。
それを考慮した上で、言葉を選び、顔を見ないよう後ろ向きで答えた。

「行くぞ、ハル。」

俺は振り向かず(ハルの為にも)、再び腰差しの剣に右手を添える。魔物は先程よりも遥かに近付いていた。ハルに集中し過ぎて雄叫びが近付いてくるのに気が付かなかった様だ。

「象野郎…!」

敵の風貌は口にした通り象をモチーフにプログラムされたと思われる。

耳は大きく、鼻は長い。色は絵で描く象ではなく、実物の象に近いものだ。足元には青い光を放つ俺の読めない言語で描かれた魔方陣が在る。

観察し案を練る。それは勿論`勝つための術´だが、それだけでは無い。

今俺が考えている案は`ハルと共に闘う術´だ。

何か二人でしか出来ない事は無いか。そう考えていると、ハルの鼻を啜る音が耳に届いた。それもさほど気にせず考案していると、ハルの手が俺の右肩にのせられた。

「ちょっと待ってくれ。今考えて――…」

そこまで言ったところで、ハルが被さる様にして呟いた。口元は耳に寄っている。

「私に考えがあるの。耳をかして。」

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