《MUMEI》
型崩れ
「いやだ…………」
若菜が泣いていた。
どうしたんだろうか。



「若菜?」



「近寄らないで化け物!」
若菜の手が樹をはね退ける。彼女の体は震えていた。

意識は空中に浮かんでいるようだった。足元に絖る感触がする。
夕日が橙色に射していて、直線に肌を辿った。

悍ましいものでもみたように、耳を塞ぎながら若菜は消えていった。



樹は暗がりで目を凝らして見た。公園の公衆トイレらしい。何か便器に入っている。


塊だった。

毛並みはバサバサになっていて、もう生きて動き回ることは出来なくなったものだ。

それを捉えて初めて排泄物とは別に鼻につく腐臭に嘔吐しそうになった。


駆け足で離れる。
樹は見覚えがあった。斎藤アラタの家の付近に公園を見かけたのである。





樹は家に戻るまでの中間地点で力尽きて塀に手を付きながら考えていた。





恐らく、アヅサではない。
アヅサは猫が好きだ。動物が好きだ。






そして人間が嫌いだ。

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