《MUMEI》
不安。
「そんなことに………なってんのかよ」
響介が愕然とした表情で頭を抱える。
「またなの………またなの?」
美鶴は今にも泣き出しそうだった。
「今のボクらにできることは………警戒することだけだ。外を一人で行動するのは危険だ。必ず複数人で行動しろ」
「…久美ちゃんは大丈夫なの!?」
美鶴が気付いたように新斗に言う。
「奴らが出所してからまだ時間が経っていない。今日のうちはまだ大丈夫だ」
断言する新斗。
「ま、部活とクラブ通ってるオレなら、返り討ちにしちゃうけどな!」
「響くん!なに不謹慎なこと言ってるの!?今はそんな笑っていられる状況じゃ………」
「わかってるよ」
美鶴の言葉を、打ち消す。
「だからこそ、今笑うんだ」
ニッと笑いながら、美鶴の頭を撫でる。
「後でお前に聞きたい事があっから、一緒に帰ろうぜ。一人だと危ないだろ?」
「えっ、でも」
顔を真っ赤にさせる美鶴。前から押しには弱い。
「そうしてもらえ。この中で一番家が遠いからな」
新斗が一言付け足す。
「……わかった」
コクンと頷く。
「じゃあもう帰るか。いいか、絶対に一人では行動するなよ?休日は家を決して出ないこと。わかったか?逆間の件はボクが考えとく」
そう言って、新斗は文化室の扉を開く。
「あ……じゃあ新斗、一緒に帰ろう」
「ああ」
響介の前を通り過ぎた瞬間に、響介の肩をポンっと軽く叩き、頑張れ、と囁いておいた。
「じゃあね、二人とも」
「お、おう!じゃな」
「また明日ね」
ゆっくりと、扉を閉めた。



「大丈夫か大丈夫か大丈夫か大丈夫か大丈夫か、本当に大丈夫なのか………?」
ぶつぶつと呟く新斗。
「どうしたの、新斗」
「ボクは不安なんだ……。もし今日、誰か襲われたら………今にも逆間が襲われていたら………不安でしょうがないんだ」
あんなにてきぱきと断言した新斗にも、不安はある。
いや、だからこそ不安なんだ。
「もしも皆になにかあったなら………ボクの責任だ…」
表情が暗くなる。
下唇を噛み、瞳が揺れている。
「大丈夫だよ、新斗」
そう言った僕を見る。
「少なくとも、僕は感謝してる。あの助言がなかったら、僕は今、こうして外に出るなんて無理だった」
「………」
「ミクちゃんに嘘を吐いたのは許したくないけど、仕方のない事だったし…。新斗が言葉を残してくれるだけで、十分ありがたいよ」
新斗は少し笑った。
「だいぶ……楽になった。すまないな」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫