《MUMEI》
6 とある日の終末
HRが終わった教室に、弛緩した空気が流れ出す。
みるみるうちに雑談が生まれ、騒がしくなる。

『用事があるから先帰るね』

先程届いたゆかりちゃんからのメール。

あのあと少し精神不安定になったゆかりちゃんは念の為保健室へ向かっていったが、どうやら先に帰ってしまったらしい。

「奈子ちゃん、このあと私達カラオケ行くんだけどよかったら一緒に行かない?」

ハッとして顔を上げると、最近仲良くなったばかりの女子が数名いた。
どうやらゆかりちゃんがいないので、一人でいることに気遣ってくれたらしい。


「ありがとう…でも今日は私も用事あって…ごめんねせっかく誘ってくれたのに」
「え、ううん、大丈夫だよ。また今度誘うね」

笑顔で教室から去って行く数名の背中をしばらく見つめていたが、手の中のメールに視線を戻す。


別にこれといった用事はなかった。
ただ、今日はなんとなく気分が優れなかった。

気遣ってくれた気持ちを台無しにした罪悪感に胸が痛んだ。
心の中でごめんね、と頭を下げる。

最後に手の中にある文面をもう一度読み直して、携帯を閉じ、手早く用意をして席を立った。

この学校に入学して早1ヶ月、新しい高校生活にやや戸惑う事もあるが、既に新しい学校を気にいってしまっている。


ここは、最近出来たばかりの県立高校で、色んな設備が整っていて女子生徒に人気の高校だ。

そんな人気の高校にこの学力で入学出来たのは最早奇跡的とも言える。

廊下の白いピカピカの床を歩くと、心踊るような気持ちになったのはつい最近の事だ。

しかし今どうしても頭に浮かんでしまうのはゆかりちゃんの事だった。

今日は朝から体調があんまり良くなかったみたいだし、ゆかりちゃんは言わないけど寝不足気味だったし。
そこで精神が不安定が重なったら体調も崩すのもおかしくない。


午後はそんな悪い事ばっかり考えてしまう。
私の良くない癖。

表面は笑って悩みがないような顔してるけど、実際臆病で、見栄っ張りで。
すぐ物事から目を背ける。

またそんな自己嫌悪に陥り、ぶるぶると頭を横に振る。
大丈夫、きっとゆかりちゃんは元気で、明日何もなかったように、「おはよう」って笑ってくれる。
そしたら私も「おはよう」って笑える。

だから、大丈夫。

自分にそう言い聞かせて、上履きを脱ぐ。
でも。

でも。

さっきの、姿。
昔の震えてた姿とは、別人の姿。

何か、これからよくない事が起こりそうで。
震いを打ち消すように、そっと自分を抱きしめて靴を履いた。




校舎を出ると、自分と同じ下校する生徒達が楽しそうに談話しているのが見えて、その輪から離れるように迂回した。

その輪にすれ違うときに夕飯の事について、チラッと聞こえたので、このあと帰りに食材の調達に行くことに決めた。

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